ERCP後に発症した急性膵炎により死亡した事案について患者側の請求を一部認容した裁判例|医療事故 医療過誤 / 弁護士法人ALG&Associates

ERCP後に発症した急性膵炎により死亡した事案について患者側の請求を一部認容した裁判例

大阪地方裁判所平成27年2月24日判決(確定)

ERCP後に発症した急性膵炎により死亡した事案について患者側の請求を一部認容した裁判例
(認容額:合計2324万215円)
大阪地方裁判所平成27年2月24日判決(確定)

文責:弁護士 上田 圭介

紹介する裁判例

大阪地方裁判所平成27年2月24日判決(確定)
事件番号 平成24年(ワ)第7605号
認容額 合計2324万215円

事案の概要

患者が,胆嚢癌の左右胆管合流部への浸潤による閉鎖性黄疸に対する内視鏡的逆行性膵胆管造影検査(ERCP)を受けたところ,検査後に急性膵炎(ERCP後膵炎)を発症し,その後に急性膵炎の重症化,多臓器不全,心停止との経過を辿って死亡したことにつき,患者の相続人らが,損害賠償を求めた事案である。なお,本件では,内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)は実施されていない。

患者側の主張

患者側は,急性膵炎に対する治療に関し,①急性膵炎に対する初期輸液の不足,②急性膵炎の重症度診断の遅れ,③鎮痛剤ボルタレンの不適切な投与,④予防的な抗菌薬投与の遅れについて過失がある旨を主張した。

争点

患者側の主張に対して医療機関側は,①初期輸液の不足,②急性膵炎の重症度診断の遅れにつき,過失責任を負うことを争わなかった。

そのため,③ボルタレンを投与した過失,④予防的な抗生剤投与の遅れの過失,⑤医療機関側の過失と患者の死亡との間の因果関係の有無が争点となった。

なお,患者側が主張した①初期輸液の不足の過失とは,簡潔に述べると,炎症に伴う循環血漿量の低下によって急性循環障害が生じることを防止するため,急性膵炎の初期治療に必要な輸液の絶対量は3000~6000ml/日であるが,本件では1500ml/日しか投与されていなかったことを内容とするものである。また,②急性膵炎の重症度診断の遅れの過失とは,急性膵炎は発症時に軽症であっても急激に重症化することがあるため,急性膵炎の発症後は経時的(特に発症後48時間以内)に重症度判定を実施すべきであったにもかかわらず,これを怠ったことを内容とするものである。

裁判所の判断

(1)③ボルタレンを投与した過失についての判断

急性膵炎の疼痛治療として,疼痛が重度の患者に対してはボルタレンを投与することは禁忌であるところ,本件ERCPが実施された当日から翌日にかけて腹痛,心窩部痛,背部痛,ひどい疼痛を訴えていたことからすれば,急性膵炎を発症した時点(本件ERCP実施日の午後5時45分)以降,高度かつ持続的な疼痛があったものと推認できるため,急性膵炎を発症した時点以降にボルタレンを投与したことに過失が認められる。

(2)④抗生剤の予防的投与の遅れの過失についての判断

「急性膵炎診断ガイドライン2010(第3版)」及び「急性膵炎における初期診療のコンセンサス(改訂第3版)」によると,急性膵炎の重症例は,膵及び膵周囲に感染が合併し,敗血症から多臓器不全をきたす頻度が高いため,重症と診断された場合には,直ちに抗生剤の静脈内投与を開始することが推奨されているのであるから,医師らには,急性膵炎が重症化した時点又は感染を示す所見が認められた時点で,抗生剤を予防的に投与する注意義務があったといえる。

本件では,①本件ERCP実施2日後には急性膵炎が重症化していた可能性があること,②本件ERCP実施3日後には血液検査の結果,白血球数が1万2700/μl,CRPが20.5mg/dlと高度の炎症所見が認められ,好中球の比率も88.5%に上昇するという感染を示唆する所見も認められたことからすれば,医師らには,遅くとも本件ERCP実施3日後の血液検査の結果が判明した時点で,速やかに抗生剤の予防的投与を開始する義務があったといえるところ,医師らは本件ERCP実施6日後まで抗生剤の予防的投与を行わなかったのであるから,抗生剤の予防的投与の遅れについて過失が認められる。

(3)⑤過失と死亡との間の因果関係についての判断

裁判所が認定した医学的知見及び鑑定意見によれば,医師らが,遅くとも本件ERCPを実施した翌日の時点で,細胞外液補充液を用いて,患者に必要とされる初期輸液(3000ml/日)を開始していれば,本件急性膵炎の初期の病態悪化を抑えることができ,本件急性膵炎の重症化を防ぐことができたか,重症化を遅らせることができた高度の蓋然性が認められる。

そして,急性膵炎の予後に関する統計によれば,急性膵炎の軽症例での死亡率は1%未満であるから,適切な初期輸液がされた場合には,本件急性膵炎が発症後26日目の時点における本件患者の死亡という結果を回避できた高度の蓋然性があると認められる。

よって,医師らの過失と患者の死亡との間には因果関係があると認められる。

コメント

裁判所は,初期輸液の不足(①)以外の過失(②,③,④)については,死亡との間の因果関係の有無を判断していないが,医療紛争が生じる「比率が高い疾患」と言われるERCP後膵炎(「医療判例解説第61号(2016年4月号)」(医事法令社)10頁)に対する(不作為を含めた)診療に関し,複数の過失(③,④)を認めたという点において意義がある裁判例といえる(なお,上記3記載のとおり,①,②ついては医療機関側が過失を認めていたため,過失に当たるか否かを裁判所は判断していない)。

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