相当程度の可能性を否定した最高裁判例(最判平成17年12月8日)| 医療事故 医療過誤 / 弁護士法人ALG&Associates

相当程度の可能性を否定した最高裁判例

最判平成17年12月8日

相当程度の可能性を否定した最高裁判例(最判平成17年12月8日)

文責:弁護士 宮本 龍一

事案の概要

当時51歳の男性Aが,東京拘置所内で勾留中に,脳梗塞を発症し,重大な後遺症が残った場合について,速やかに外部の医療機関へ転送されていたならば重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されたとはいえないとして,国家賠償責任が認められなかった事案。

時系列表

平成13年
4/1
7:30 A起床
7:40 A「うっ」「あっ」等の言葉を発するのみ。医務部に連絡。
7:50 血圧測定等の診察。症状から脳内出血も考えられたため,医務室に搬送。
8:00 B外科医による診察。脳内出血又は脳梗塞の疑い。
8:10 ICUに収容。(ICUには,レスピエーター,酸素吸入器,吸引機,ハートレートモニター等,緊急処置に必要な医療機器が備えられており,ICU内にはカメラ2台が設置されており,患者の様子をモニターで監視できるようになっていた。)
8:30 B外科医が,太い静脈の血管を確保し,輸液等を可能にするため鎖骨付近に針を刺して経静脈栄養法(IVH)を施行し,ソリタT3,ラクテックGの点滴を開始し,尿道確保の処置を行った。
B外科医がC精神神経科医に当直引継ぎ。CT撮影で原因の確認をする必要があることを伝えた。
Aは,同時点で,「問いかけに答えず,右半身麻痺,発語不能,瞳孔は正円。両眼の対光反射は迅速」という状態であった。
9:03 【第1回CT撮影】C精神神経科医は,Aが脳内出血又は脳梗塞のいずれかであろうと考え,頭部CTの撮影を行った。
画質は悪かったが,Aの脳に低吸収域(脳細胞が虚血状態になって,元に戻りにくい状態になっていることを示す画像。黒っぽく写る。)が写っていた。
C精神神経科医は,第1回CT画像に高吸収域が見られなかったことからAの症状は脳内出血ではなく,脳梗塞であると判断し,発症から数時間経過しているものと考え,脳浮腫対策のため,グリセオールの投与の開始を指示した。
11:15 【第2回CT撮影】D放射線技師が到着し,第2回CT撮影が行われた。(画像の出力も行われた。)
C精神神経科医は,第2回CT画像所見でも低吸収域が認められたことから脳梗塞の可能性が高いとの当初の判断を確認した。
C精神神経科医は,D医務部長に連絡報告。D医務部長も専門病院に転送するかどうかはその後の経過によって判断,特段の指示はせず,患者に急変があれば連絡するように指示した。
11:45 A「発語なし,瞳孔左右不同なし,対光反射あり」
17:30 A しきりに起きようとする,発語なし
21:20 A就寝
23:30 医務部事務室のモニターが切られ,准看護士や医師の巡回がなくなる。ICUのモニターは,作動しており,夜間の勤務職員が血圧の変化,脈拍の急変を確認できる状態であり,異常値を検出した際の警報装置も設けられていた。
平成13年
4/2
7:50 D医務部長(一般消化器外科)が登庁後,診察。右半身麻痺,言語障害がある状態。
血管確保に伴う感染防止の投薬を指示。
9:27 【第3回CT撮影】
左,中大脳動脈,後大動脈に広範な脳梗塞があり,一部出血性梗塞となっている。パターンからは心原性脳梗塞と考えられる。病変による正常構造物異変は高度。左半球は脳溝が狭小化し,脳室は拡大,側頭頭頂後頭葉梗塞という所見を得た。
10:00 前日のCT写真と比較したところ,左の脳室が圧迫されており,脳浮腫の進行が認められたことから,東京拘置所で保存的療法を継続することは不適当と判断される。
11:05 重症指定とし,呼吸管理が必要であると判断して気管切開。
12:00 警察病院に対し,受け入れ可否を照会(14:00に受け入れできないの回答)
15:41 日本医科大学附属病院へ転医,到着。A:JCS100
16:30 【第4回CT検査(別病院)】
頭部CT検査。左中大脳動脈領域に広範な脳浮腫が出現し,左半球は脳溝が狭小化し,脳室は拡大し,大脳鎌(海馬)釣ヘルニアがある状態。(前日,前々日より増悪傾向にある)
22:15 前側頭部の減圧開頭術が施行。(~4/3 0:23)

原告の主張

  • ①本件の脳梗塞について,血栓溶解療法の適応があった可能性があるから,東京拘置所の医師は,4/1 8:00頃速やかに専門病院へ転院させるべきであったのに,これを怠った。
  • ②仮に,血栓溶解療法の適応がなかったとしても,Aに脳梗塞の適切な治療を受ける機会を与えるために,速やかに専門病院へ転医させるべきであったのに,これを怠ったとして,適切な治療を受ける期待権が侵害されたことによる精神的損害について慰謝料の支払いを求めた。

第1審

Aは4/1 7:30に近接した時点で脳梗塞を発症したもので,8:30過ぎに専門の医療施設へ転送すれば血栓溶解療法が可能であったから,東京拘置所は,遅くとも8:30過ぎの時点で速やかに転医の手続をとるべきであったのに,同手続を取らず,仮に,転医先の専門医療施設で血栓溶解療法が施行されていれば,現に生じたほどの後遺症は残らなかった可能性があり,右転移義務違反は,そのような可能性を完全に奪うものであるから,慰謝料として,120万円の限度で認容された。

どのような事実,医学的知見を根拠に否定したのか。

3つの理由

  1. (1)第1回CT撮影の時点で,Aに血栓溶解療法の適応がなかった
  2. (2)それより前の時点においては,血栓溶解療法の適応の可能性はあるが,血栓溶解療法の適応があった間に,外部機関に転送して,転送先の医療機関において血栓溶解療法を開始することが可能であったとは認めがたい。
  3. (3)東京拘置所においては,Aに対応した治療が行われており,外部の医療機関に転送したとしても,Aの後遺症の程度が軽減されたというべき事情認められない。

(0)脳梗塞に対する血栓溶解療法について

虚血性脳卒中:脳を灌流する動脈の閉塞により,その支配領域が虚血に曝されることに始まるが,虚血に陥ったすべての脳組織が直ちに不可逆的な死(脳梗塞)に至るわけではなく,虚血の周辺部にあり,一定の脳血流量が保たれている組織は,虚血状態にあるが救命可能で可逆性の要素を持っている。
→虚血巣は,放置すれば時間経過とともに不可逆的な梗塞に移行するため,梗塞への進行を抑止するための治療法と対策が重要とされている。

脳梗塞については,一般に発症後24時間以内を急性期とし,超急性期(一般には血管 の閉塞による血流の途絶によって虚血状態に陥った脳細胞を,不可逆的な細胞死(壊死)に至る前に,血栓溶解療法で救命することのできる時期)において,血栓溶解薬を用いた血栓溶解療法が一定の治療効果をもたらすことが認められている。

血栓溶解療法とは,超急性期において,血栓溶解薬により血管の閉塞(血栓)を溶解させて血流を再開させる療法であるが,組織プラスミノーゲン・アクチベータ(以下「t-PA」という。)は,血栓溶解療法に使用する血栓溶解薬であり,ウロキナーゼ(プロウロキナーゼ)も,t-PAと同じく血栓溶解薬である。

① 我が国において,承認されている血栓溶解療法では,十分な閉塞脳血管の再開通を得ることはできない。

日本では,脳梗塞の治療にt-PAを使用することは認められておらず,承認されている血栓溶解薬とその投与法は,発症後症5日以内の脳血栓症に対する低用量ウロキナーゼの静脈内反復投与法(7日間)のみであるが,ウロキナーゼ静脈内反復投与法では,十分な閉塞脳血管の再開通を得ることはできない。(そのため,現実にはいくつかの脳卒中専門施設で,高用量ウロキナーゼあるいはt―PAの局所動脈内投与や静脈内投与による血栓溶解療法が行われている。)

② 我が国においては,脳梗塞急性期の主な治療法とはなっていない

「脳梗塞急性期医療の実態調査に関する研究」によると,血栓を溶解する目的の血栓溶解薬が用いられたのは全症例の2.5%(16992例のうち)にすぎない。

③ 血栓溶解療法については,未だ明確な基準がなく,重篤な頭蓋内出血を生じさせるリスクがある

「Evidenceに基づく日本人脳梗塞患者の治療ガイドライン策定に関する研究」平成13年度総括研究報告書によれば,「t―PAの静脈内投与は,急性期(発症三時間以内)の脳梗塞患者の転帰改善に有効である。その一方,血栓溶解療法は重篤な頭蓋内出血の頻度をも増加させる。その至適患者選択,薬剤の種類,投与量,投与法については,明確な基準がいまだ明らかではない。」とされている。
血栓溶解療法の問題点として,血栓溶解療法は,心筋梗塞では治療に使われていて優れた成績を挙げているが,脳は非常に柔らかく,壊れやすい組織であるため,脳梗塞の発作を起こして死んだ脳の組織にt-PAやウロキナーゼを使うと,確かに詰まった血管は元通り流れるようになるが,副作用として脳に出血を起こすことがあり,患者は命まで危なくなるという危険性があることが指摘されている。

④ 血栓溶解療法の好適応の条件
  • <1> 塞栓性梗塞であること
  • <2> 発症後3時間以内又は6時間以内であること
  • <3> CT上明らかな低吸収域がないこと
  • <4> 「earlyCT sign」が認められたとしても,中大動脈領域の33%以下にとどまっていること
  • <5> 内頸動脈閉塞ではないこと
  • <6> 血圧レベルが収縮期圧184水銀柱mm以下,拡張期圧110水銀柱mm以下であること

なお,血栓溶解療法は,「early CT sign」がない場合,あるいはあっても軽度の場合に適応があり,これ以外の場合については,重篤な出血の可能性が低いと判断した症例に限定して行うべきであるとの見解もある。
※「earlyCT sign」とは,発症から6時間以内の急性期脳梗塞に置いて頭部CTに現れる画像所見のこと。

(1)について

→既に低吸収域が写っており,客観的にみて,同時点では低吸収域が発生していたことが明らかである。
そして,このような低吸収域が発生していたことからすれば,Aは,上記時点において,発症後6時間以上,あるいは数時間以上が経過していたものと認められ,その発症時期は,午前7時30分の起床の点検時よりも何時間か前であった可能性が高い。
(※低吸収域は一般的に発症から8時間ほど経過してから認められる)

→適応条件からして,同時点では,血栓溶解療法の適応があったとは認めがたい。

(2)について

B外科医による診察を受けた時点(8:00)では,CT撮影を行っても低吸収域がなかった可能性があり,B医師による診察がなされた8:00の段階で転送すべきでは?(高裁では,医師の経験・能力,Aの状況から脳卒中であることの見極めが付いた8:00ころの時点あるいは少なくともC医師が引き継いだ8:30ころの時点において,CTの撮影を待たずに,速やかにAを脳神経内科・同外科の専門知識と治療設備を有する専門病院へ転医させるべきであったのでは?)

→上記の時点で転医させることにしたとしても,刑事被告人であるAについて,転医をするには相当の時間を要することになり,血栓溶解療法の適応がなくなるまでの30分余あるいは1時間余の間に,CT撮影を完了して,血栓溶解療法を開始することが可能であったとは認め難い。(実際に4/2の転医の手続から3時間以上かかっている。)

→上記時点において転医させていたとしても,血栓溶解療法の適応の可能性はなかった。

(3)について

東京拘置所は,Aの発症を知り,直ちにICUに収容し,血管確保,尿道確保,酸素吸入等の緊急の措置を取り,次いで頭部CT撮影を行って脳梗塞で一定時間経過したものと判断し,脳浮腫の進行を防ぐため抗脳浮腫剤であるグリセオールの投薬を行うとともに,定期的にバイタルサインをチェックして状態の観察を続け,翌日には再度のCT撮影で脳浮腫の進行を認めて転医措置をとっていた。

このような東京拘置所での措置は,脳卒中患者に対して通常行われる手順に従っており,Aの症状に対応した治療が行われている。

また,その後の経過を見る限り,4/1に脳梗塞の症状が生じていることが発見された時点で直ちに外部の医療機関に転送したとしても,その後の経過を見る限り,大きな差はなかったという見解が示されており,速やかに外部の医療機関へ転倒していたとしても,上告人の後遺症の程度が軽減されたというべき事情が認められない。

従来の相当程度の可能性法理とは異なる判断枠組みを採用したのか。米村教授の見解につき検討を加えよ。

「可能性」法理の理論的意義について

  • A説:「相当程度の可能性」を被侵害利益とする新たな不法行為類型とする理解
  • B説:因果関係の証明度につき,「相当程度の可能性」で足りるとする理解(相当程度の可能性を因果関係に代わる要件とする理解)

(1)本判例は,従来の相当性の可能性法理と同じ枠組みで判断されている

島田仁郎の補足意見によると,平成12年9月22日判例及び平成15年11月11日判例は,B説と考えられている。(保護法益として,患者の生命身体を念頭に置いた上で,死亡または重大な後遺症との間の因果関係がなくても,「相当程度の可能性の存在」が証明されれば足りるとしており,患者側の立証の困難を緩和するとともに,「相当程度の可能性の存在」を因果関係の存在に代わる要件として,損害賠償責任が認められる場合を合理的な範囲に画したものと理解されている。

→本判例においても,同様に,重大な後遺症が残らなかったであろう患者の身体を保護法益として,本件各事実に照らして,速やかに外部の医療機関への転送が行われ,転送先の医療機関において医療行為を受けていたならば,重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されたとはいえないとするもので,「重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性」や「患者が適時に適切な医療機関へ転送され,同医療機関において適切な検査,治療等の医療行為を受ける利益」を保護法益(反対意見)として考えて判断がなされたものではない。仮に,保護法益を「患者が適時に適切な医療機関へ転送され,同医療機関において適切な検査,治療等の医療行為を受ける利益」と解した場合,転送して適切な医療行為を受けたなら重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性は,過失の有無・程度を判断する上で考慮すべき重要な要素となっても,賠償責任を認める要件とならない。)
 才口裁判官による補足意見では,反対意見のような保護法益を認めると,実体法に定めのない「期待権」という抽象的な権利の侵害につき,不法行為の損害賠償を認めるものであるから,賠償範囲があまりに拡大されるとして批判している。

(2)米村教授による相当程度の可能性の見解

≪死亡等に至らない「相当程度の可能性」の概念≫

①:行為時点で評価される抽象的な生存等の可能性をいうものとする理解
   →行為時点での抽象的可能性の低下のみにより不法行為が確定的に成立するため,行為に過失があれば,結果不発生事例を含め大半の事例で賠償責任が認められ,「期待権」を保護した場合とほぼ同様の結論となる。

②:行為後の事実経過の中で指定される具体的な生存等の可能性をいうものとする理解
→適切な行為がなされた場合にいかなる状況が発生するかを具体的事実経過に即して想定し,それと比較して現実に結果発生の可能性が高まったと判断される場合に賠償責任が肯定される。結果不発生事例では,死亡等を回避しうる具体的可能性の低下も否定されることが多いと推測され,事実上賠償責任は肯定されにくい。

ア 平成12年9月22日判例

≪背部痛等を訴えて来院した救急患者に対し医師が必要な検査を行わず,約15分後に患者が急変し,心肺停止を来した事例≫
「疾病のため死亡した患者の診療に当たった医師の医療行為が,その過失により,当時の医療水準にかなったものでなかった場合において,右医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども,医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは,医師は,患者に対し,不法行為による損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である。
けだし,生命を維持することは人にとって最も基本的な利益であって,右の可能性は法によって保護されるべき利益であり,医師が過失により医療水準にかなった医療を行わないことによって患者の法益が侵害されたものということができるからである。」

→米村教授の見解では,「可能性」法理をどのように適用したか明確でなかったことから,A説B説いずれも存立する余地があったとしている。

イ 平成15年11月11日判例

≪上気道炎として開業医で通院治療中の小児が激しい嘔吐により再受診したところ,急性胃腸炎などの診断で外来点滴治療がなされたものの,翌朝に意識障害を来たし,急性脳症と診断され,重篤な脳障害を残した事例≫
患者の診療に当たった医師が,過失により患者を適時に適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った場合において,その転送義務に違反した行為と患者の上記重大な後遺症の残存との間の因果関係の存在は証明されなくとも,適時に適切な医療機関への転送が行われ,同医療機関において適切な検査,治療等の医療行為を受けていたならば,患者に上記重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときは,医師は,患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負うものと解するのが相当である。
(中略)
しかるに,原審は,前記のとおり,急性脳症の予後が一般に重篤であって,統計上,完全回復率が22.2%であることなどを理由に,被上告人の転送義務違反と上告人の後遺障害との間の因果関係を否定し,早期転送によって上告人の後遺症を防止できたことについての相当程度の可能性も認めることができないと判断したのであるが,上記の重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存否については,本来,転送すべき時点における上告人の具体的な症状に即して,転送先の病院で適切な検査,治療を受けた場合の可能性の程度を検討すべきものである上,原判決の引用する前記の統計によれば,昭和51年の統計では,生存者中,その63%には中枢神経後遺症が残ったが,残りの37%(死亡者を含めた全体の約23%)には中枢神経後遺症が残らなかったこと,昭和62年の統計では,完全回復をした者が全体の22.2%であり,残りの77.8%の数値の中には,上告人のような重大な後遺症が残らなかった軽症の者も含まれていると考えられることからすると,これらの統計数値は,むしろ,上記の相当程度の可能性が存在することをうかがわせる事情というべきである。

→米村教授の見解では,上記判例は,①の抽象的可能性の理解に立った判例であり,その場合,抽象的可能性理解に基づき,行為時点で措定される生存等の可能性が過失ある行為によって低下したか否かを判断していると言えるが,このような判断は,B説が主張するような因果関係の証明度緩和がなくとも導かれうるのみならず,死亡・後遺障害等の実体的利益侵害に対する因果関係の判断とはそもそも異質であり,証明度緩和では説明できないとし,A説と考えているように思われる。

エ 平成17年12月8日(本判例〉

米村教授の理解では,②の具体的可能性の理解に基づく判例と解されている。本判例について明言しているわけではないが,米村教授の見解では,相当程度の可能性法理の法技術的な理解としてはA説を採るべきとしている。(反対意見は①の理解に基づくもの?)

(3)私見・考察

下線部からは12年判例および平成15年判例はA説に立った判断のように思われます。
相当程度の可能性の法理の位置づけとしては,期待権のような法的保護に値しないものについては保護法益とならないとし,生命・重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性として,因果関係の緩和(B説)ではなく法益侵害ととらえる説(A説)として理解することも可能ではないかと思います。本件では,速やかに転医を行っていれば,後遺障害が残存しなかった相当程度の可能性がなかった(=法益侵害なし)ということで損害賠償が認められない判例ととらえることはできないでしょうか。もっとも,法益侵害ととらえたとしても,事実上因果関係の立証緩和に繋がると考えられることから,実務上は大きな差異を生じさせるものではないように思われます。
今後の大きな差異を生む部分としては,「相当程度の可能性」の可能性の程度の判断方法として,行為当時までの事実関係に基づき,現実の行為直後の抽象的な生存可能性と医療水準に合致する医療がなされた場合の当該仮想敵行為直後の抽象的な生存等の可能性を比較する方法によるか,行為後の診療経過等の事情に基づき,具体的な生存可能性があったのか判断する方法によるか,であると思われます。
本判例は,後者の方法による判断であると考えられますが,本判例以後は,行為後の診療経過等の事情に基づき,具体的な生存可能性が低下した旨主張していく方がよいかと思われます。

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