外国における代理出産と子の出生届け(最高裁平成19年3月23日第二小法廷判決)| 医療事故 医療過誤 / 弁護士法人ALG&Associates

外国における代理出産と子の出生届け

最高裁平成19年3月23日第二小法廷判決

外国における代理出産と子の出生届け(最高裁平成19年3月23日第二小法廷判決)

文責:弁護士・医学博士 金﨑 浩之

事案の概要

X1(夫)とX2(妻)は、日本在住の日本人であるが、日本では代理出産が認められていないため、米国ネバダ州において、同州在住の米国人女性を代理母として子ら(双子)を出産し、ネバダ州の裁判所は、Xらが子らの父母であることを認める裁判を下した(本件外国判決)。
ところが、日本において、X1を父、X2を母とする出生届けが受理されなかったため、Xらは、東京家庭裁判所に本件出生届けの受理を命じることを求める申立てを行った。東京家裁は、X2による分娩の事実が認められないことを理由に、X2と子らの親子関係を認めることはできず、出生届けの不受理は適法であるとして申立てを却下。
これに対し、抗告審である東京高裁は、民事訴訟法118条の適用ないし類推適用により、本件外国判決は日本においても承認されると判示し、その結果、Xらと子らの間に親子関係を認めることができると判示して、上記審判を取り消した。そこで、Y(品川区)により、この高裁決定を不服として許可抗告がなされた事案。

背景となる基礎事項

1 代理出産

夫の精子と妻の卵子を使用して受精卵を作成し、それを第三者の女性の子宮に移植して出産してもらう方法。妻に生まれつき子宮がないか、あるいは子宮を摘出しているため懐妊できない場合に利用される。

2 代理出産契約

代理出産を希望する夫婦と代理母となる女性との間で締結される有償契約。女性が既婚者である場合は、その夫も契約の相手方となる。

3 外国判決

本件では、ネバダ州裁判所により、Xらを代理出産で出産した子らの父母とする裁判がなされ、ネバダ州からXらを父母とする出生証明書が発行されている。

4 代理出産におけるわが国の実情

日本では、代理出産を禁止する法制度はなく、このような場合の親子関係に関する明文規定もないが、日本産婦人科学会が代理出産に消極的な姿勢を採っていることから、事実上禁止されている。

論点

1 代理出産を認めた外国判決は、民訴法118条3号の公序要件。
民訴法118条(外国裁判所の確定判決の効力):「外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する」とし、「判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと」(同条3号)としている。

2 準拠法は日本法か。
法の適用に関する通則法28条(嫡出である子の親子関係の成立):「夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする。」(1項)
※当事者間で争いなし。

3 子を懐妊・出産した女性と卵子を提供した女性が異なる場合において、卵子提供者である女性と子の間に親子関係を認めることができるか(明文なし)。

最高裁平成18年9月4日第二小法廷判決(判タ1227号120頁)

1 結論

破棄自判

2 理由

(1) 論点1について
外国判決の承認に関する民訴法118条3号の公序要件につき、ある外国判決の内容が日本の法秩序の基本原則ないし基本理念と相容れない場合には、その要件は充たされない(最判平成9年7月11日民集51巻6号2573頁)。
※最判平成9年7月11日:「外国裁判所の判決のうち、補償的損害賠償等に加えて、見せしめと制裁のため懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じる部分は、わが国の公の秩序に反し、その効力を有しないから、右の部分については執行判決をすることができない。」

(2) 論点2について
Xらの本国法である日本法が準拠法となる(法適用通則法28条1項)。

(3) 論点3について
ア. 実親子関係は、①身分関係で最も基本的なもの、②様々な社会生活上の関係の基礎となり、公益に深く関わる事項、③子の福祉にも重大な影響を及ぼす。→実親子関係を定める基準は、一義的に明確なものでなければならず、実親子関係の存否は、その基準に従って一律に決定されるべきもの。
したがって、民法が実親子関係を認めていない者との間に実親子関係を認める内容の外国判決は、わが国の法秩序と相容れないものであり、民訴法118条3号の公序良俗に反する。

イ. 母とその嫡出子との間の母子関係の成立に関する明文規定はないが、母子関係は、①懐胎・出産という客観的な事実により当然に成立することを前提とする規定がある(民法722条1項)、②非嫡出子との関係でも、出産という客観的な事実により当然に成立すると解されてきた(最高裁昭和37年4月27日第二小法廷判決民集16巻7号1247頁)、③血縁上の親子関係を基礎に置くものではあるが、子を出産した女性と卵子を提供した女性が異なる場合に、後者を母とすべき趣旨をうかがわせる規定は見当たらず、立法当時、このような事態は想定されていなかった。→懐胎・出産した女性をその子の母と解さざるを得ない。

考察

1 民訴法118条3号における公序要件

(1) 早川
事案によっては日本民法が認めない実親子関係の成立を容認すべき場合もありうる(百選35、73頁)。
但し、本件は、日本での事実上の禁止を回避するために代理出産ツアーが行われているので、公序良俗違反を認めるだけの実質的理由がある。

(2) 私見
実親子関係は、相続、扶養義務、親権・監護権等の法律関係を確定させる基礎となる身分関係を決するものであるから、日本民法が実親子関係を認めない者との間で親子関係を承認する外国判決は公序良俗に反すると解すべき。
日本で代理出産を事実上禁止しているのは、産婦人科学会にすぎず、法が禁じていると当然に解すべき根拠にならない。→公序良俗違反を認めるだけの実質的理由があるとはいえない。

(3) 討論
外国裁判所の確定判決が、当該外国の国内法を準拠法とした場合と、日本法を準拠法とした場合で結論は異なるか?

2 代理出産子の母を定める基準について(私見)

(1) わが国の民法が、懐胎・出産した女性を母とすることを想定しているのは、出生した子が懐胎・出産した女性の遺伝子(血縁関係)を受け継いでいるのが通常だからであり、あくまでも血縁関係を基礎にしているのではないか。

(2) 一義的に決すべきことから、なぜ当然に出産した女性が母になると解すべきなのか疑問。卵子提供者が母であると解しても、一義的に決することはできる。

(3) 日本の産婦人科学会が見解を変更し、代理出産を行うようになった場合でも、出産した女性が母になるのか?→代理出産した女性の意思に著しく反し、社会は混乱する。
※「近年は、海外でOD(卵子提供)を受ける症例が増加しており、将来的にわが国でも認められる可能性があるので、OD後妊娠についても、産科医は熟知する必要がある(長谷川潤一編著「臨床産科学テキスト」22頁~23頁)。

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