最高裁判例平成11年3月23日| 医療事故 医療過誤 / 弁護士法人ALG&Associates

最高裁判例平成11年3月23日

最高裁判例平成11年3月23日

文責:弁護士 宮本 龍一

事案

Aは、顔面けいれんの根治手術である脳神経減圧手術を受けたが、手術後まもなく小脳部に血腫等が発生し、死亡した。
 Xらは、①手術中脳ベラによる小脳の牽引を誤り、小脳を圧迫する等して、小脳から出血させ、又は手術器具で脳動脈を損傷して出血させた過失、②本件手術特有の危険性について説明を怠った義務違反があると主張。
(なお、顔面けいれんは、脳底部の動脈が顔面神経に接触し、これを圧迫することによって生ずるものであり、脳神経減圧手術は、右脳動脈を神経から剥離して症状を消失させる根治手術である。脳ベラで小脳半球を開排し、手術器具で後頭部の脳動脈に触れるため、生命にかかわる小脳内血腫、後頭部硬膜外血腫等を引き起こす可能性がある。)

原審

  1. 1 Xの脳内血腫は、本件手術部位である小脳橋角部と近接していると言い難い。
  2. 2 小脳橋角部には血腫が見当たらず、同部から出血した場合には、普通その位置が横にずれるはずの第四脳室が横にずれていない。小脳橋角部から出血したことを認めるに足りる証拠がない。
  3. 3 入院後一時的に高血圧が認められていたこと、病理解剖の結果、中脳大動脈に軽度のアテローム変化や後下小脳動脈の蛇行といった動脈硬化の症状があったことに照らせば、予期せぬ高血圧性の脳出血が本件血腫の原因となったと推測することも不自然ではなく、手術器具による血管損傷があったと推認することも相当ではない。
    →過失を否定。

上告理由

事実認定に経験則違反がある

判旨

  1. 1 本件手術中の何らかの操作上の誤りに起因するのではないかとの疑いを強く抱かせるもの。

    (理由)
    1. ①本件手術は小脳内血腫、後頭部硬膜外血腫等を引き起こす可能性があることが指摘されている。
    2. ②Aの脳の病変が手術操作を行った側である小脳右半球に強く現れている
    3. ③Aは術前に本件手術中に高血圧性脳内出血を起こす素因があることを確認されていなかった
    4. ④高血圧性脳内出血のうち小脳に発生する確率は1割
    5. ➄病理解剖でも、血種の原因となるような明らかな動脈瘤は認められない。
  2. 2 本件手術の硬膜内操作中は、出血をほとんど伴わないはずであるにもかかわらず、150mlの出血量があり、総出血量も906mlに上る。家族への説明の仕方も順調に終了した旨報告することなく、脳浮腫、脳出血が生ずる危険がある旨説明しており、本件手術中の操作により、Xの生命に危険を生じさせたのではないかとの疑いを生じさせる。
  3. 3 手術の際の記録から、血腫は、小脳正中部及び傍正中部のみならず、小脳橋角部を含む第四脳室周囲にもあることがうかがわれ、直ちに血腫のイは、小脳正中部及び傍正中部にあるとした原審の認定は、採証法則に反するもの。また、原審の依拠した鑑定書は客観的資料を精査した上での鑑定か怪しい。
  4. 4 仮に、血種の位置等に関する原審の認定事実を前提にするにしても、血種が発生する場所は脳ベラをかけた場所あるいはその近傍部に限らないことから、操作上の誤りにより血腫が発生したとは認められないと判断することはできない。
  5. 5 カルテに「くも膜下出血が脳室内に逆流してきたと考えられる」との記載があるにもかかわらず、これに触れずに、Xらの主張を認めるに足る証拠がないとしたのは採証法則に反する。
  6. →結果
    他の原因による血腫発生も考えられないではないという極めて低い可能性があることをもって、本件手術の操作上に誤りがあったものと推認することはできないとし、Aに発生した血腫の原因が本件手術にあることを否定した原審の認定判断には、経験則ないし採証法則違背があるといわざるを得ない。

解説

  1. 1 因果関係の立証

    経験則に照らし全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、これで足りる。

    しかし、鑑定を行う医師は、純粋な医学研究の観点から結論を述べることもないわけではなく、鑑定が、裁判上の証明とは異なる観点に立って行われることもある。

    →鑑定の重要性はいうまでもないとしても、裁判所が判断をする際の一資料であり、決定的な証拠資料とまではいえない。
    鑑定が前提とする事実がいかなるものであるのかを子細に検討した上で、当該鑑定の証拠評価を十分行う必要がある。(平成9年2月25日判例と同じ)
  2. 2 本判決について

    本判決は、本件鑑定につき、カルテ中の記載内容等からうかがわれる事実に符合していない上、鑑定事項に比べ、鑑定書はわずか1頁に結論のみ記載したものなので、内容も極めて乏しく、客観的資料を評価した過程がなく、信用性に疑問があるものである。

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