最高裁判例平成9年2月25日| 医療事故 医療過誤 / 弁護士法人ALG&Associates

最高裁判例平成9年2月25日

最高裁判例平成9年2月25日

文責:弁護士 宮本 龍一

事案

 Aは、風邪で、昭和50年3月17日から開業医Yにかかり、約4週間の間、継続的に多種の薬剤を投与され、その副作用により顆粒球減少症(細菌等を消化、分解する機能を担う白血球中の顆粒球が正常値を下回り、悪化すると敗血症等により死に至る病気)にかかった。
 Yは、同年4月12日にAに生じた本症の兆候ともいえる発疹を見落とし、14日にAの訴えによりこれを発見したが、手遅れとなり、死亡した。

原審

  1. 1 発症日を4月13日~14日朝、4月10日から投与されたネオマイゾンが唯一の起因剤である。
     4月5日の時点で血液検査義務違反があるが、本症の発症時期は4月13日ないし14日であるから、検査義務違反と本症発症との間に因果関係はなく、また、本症発症の副作用を有する多数の薬剤を継続投与していたのに、4月14日にAが発疹を訴えるまで問診等をしなかった点に経過観察義務違反があるが、Aの本症が急性の激症型に近いものであったことを考慮すると、経過観察義務違反と本症発症との間に因果関係はないと判断した。
  2. 2 風疹等の疑いもあったからAが本症の発症を想定しなかったことに過失がないと法律判断し、全部棄却した。

上告理由

  1. 1 事実認定に経験則違反がある
  2. 2 原審確定事実を前提とする法律判断にも法廷違背がある
と考えられる。

判旨

  1. 1 顆粒球減少症の副作用を有する複数の薬剤の投与を原因として患者が同症にかかった場合において、鑑定は、右薬剤はいずれも起因剤と断定するには難点があり、発症時期に最も近接した時期に投与されたネオマイゾンが最も疑われるが確証がなく、複数の右薬剤の相互作用により同症が発症することはあり得るものの本件においては右相互作用による発症は医学的に具体的に証明されていないとするにとどまり、本件において右相互作用により同症が発症したという蓋然性を否定するものではなく、証拠として提出された医学文献には同症の病因論は未完成な部分が多く個々の症例において起因剤を決定することは困難なことが多い旨が記載されているなど判示の事実関係の下においては、右鑑定のみに依拠してネオマイゾンを唯一単独の起因剤と認定することには、経験則違反の違法がある。
  2. 2 顆粒球減少症の副作用を有する複数の薬剤の投与を原因として患者が同症にかかった場合において、鑑定は、4月14日より前の患者の病歴に同症発症を確認し得る検査所見及び症候がないこと並びに同日以降の患者の症状の急激な進行から推測して、発症日を4月13日から14日朝とするが、これは患者の同症発症日をどこまでさかのぼり得るかについて科学的、医学的見地から確実に証明できることだけを述べたにすぎないものであり、他方、同症発症を確認し得る検査所見及び症候がないのは医師が同症特有の症状の有無に注意を払った問診及び診察をしなかった結果にすぎず、患者の症状の進行が急激であったと断ずるには疑いを生じさせる事情も存在するなど判示の事実関係の下においては、右鑑定のみに依拠して発症日は4月13日から14日朝と認定することには、経験則違反の違法がある。
  3. 3 開業医は、顆粒球減少症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与された患者について薬疹の可能性のある発疹を認めた場合においては、自院又は他の診療機関において患者が必要な検査、治療を速やかに受けることができるように相応の配慮をすべき義務がある。

解説

事実的因果関係のある行為についての概括的認定

  1. (1)原判決は経験則違反の違法を犯すことになった原因
     Aの本症を発症させた直接の薬剤がそのうちのどれであるのかを特定するという点に事実認定上の注意の全てを集中させたことによる。
     最高裁は、「右薬剤のうちの1つ又はその複数の相互作用が本症発症の原因であったという程度の事実を前提としてYらの注意義務違反の有無を判断することも、通常は可能であり、常に起因剤を厳密に特定する必要があるものではない」
  2. (2)どの程度の詳細さ、精密さが必要か?
     本件でAの本症発症との間で事実的因果関係のあるYの行為を具体化しようとする場合に、詳細さないし精密さには何段階か想定できる。

     ア Aの風邪様症状についてのYの診療行為
     イ Aへの薬剤のうちの1つまたは複数のYの投与行為
     ウ Aへの薬剤ネオマイゾンの Yの投与行為

→最高裁は、イの程度に具体化されていればAの本症発症との間で事実的因果関係のあるYの行為の具体化として適切。

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