「結果と因果関係を有する過失」の立証の程度 | 医療事故 医療過誤 / 弁護士法人ALG&Associates

「結果と因果関係を有する過失」の立証の程度

「結果と因果関係を有する過失」の立証の程度

弁護士 上田 圭介

はじめに

医療過誤訴訟では、患者側が過失、因果関係を主張・立証しなければなりませんが、悪しき結果と因果関係を有する過失についての主張・立証の程度を原審より緩やかに解した最高裁判例(最判平成21年3月27日)が存在しますので、紹介します。

事案の概要

患者(A)

65歳、身長143cm、体重43kg
骨粗鬆症を認める以外、健康状態が良好

診療経過

患者は、転倒して左大腿骨頸部内側を骨折し、左大腿骨頭置換術を受けた。同術中、麻酔医(B医師)は、プロポフォール及び塩酸ケタミン等による全身麻酔と塩酸メピバカインによる局所麻酔(硬膜外麻酔)を併用したところ、患者は術中に血圧低下及び心停止を認め、その後死亡した。

争点

過失(注意義務違反)

原告は、麻酔薬の過剰投与、不適切な血圧管理及び不適切な蘇生措置等の過失を主張した。

因果関係

原告は、上記過失によって心停止となり、死亡するに至ったと主張した。被告は、心停止の原因は、骨髄内手術により髄内脂肪滴が血中に流入し、肺血管が閉塞して心不全を起こす電撃型脂肪塞栓症 と考えられる旨を主張して否認した。

医学的知見

局所麻酔と全身麻酔の併用は、一般的に行われている麻酔方法であるが、各種薬剤の複合効果による影響(特に血圧低下)に留意を要するものとされている。特に、硬膜外麻酔による血圧低下は、末梢血管拡張等の機序により惹起され、全身麻酔を併用する場合には、上記影響を増大させることが知られている。

プロポフォールの能書には、局所麻酔との併用又は高齢者への投与に関し、血圧低下の危険性があるので、投与速度を減ずるなどの慎重に投与すべき旨が記載されている。塩酸メピバカインの能書には、高齢者への投与量の減量を考慮するとともに、患者の全身状態の観察を十分に行うなど慎重に投与すべき旨が記載されている。

裁判所の判断

注意義務の内容

本件手術における麻酔担当医は、プロポフォールと塩酸メピバカインを併用する場合には、プロポフォールの投与速度を通常よりも緩やかなものとし、塩酸メピバカインの投与量を通常よりも少なくするなどの投与量の調整をしなければ、65歳という年齢のAにとっては、プロポフォールや塩酸メピバカインの作用が強すぎて、血圧低下、心停止、死亡という機序をたどる可能性が十分にあることを予見し得たものというべきであり、そのような機序をたどらないように投与量の調整をすべき義務があったというべきである。

注意義務違反と因果関係

全身麻酔により就眠を得たAに対し、塩酸メピバカイン注射液をその能書に記載された成人に対する通常の用量の最高限度を投与した上、プロポフォールを、通常、成人において適切な麻酔深度が得られるとされる投与速度で持続投与し、その間、Aの血圧が硬膜外麻酔の効果が高まるに伴って低下し、執刀が開始された時点以降は少量の昇圧剤では血圧が回復しない状態となっていたにもかかわらず、投与速度を減じず、その速度が能書に記載された成人に対する通常の使用例を超えるものとなっていた、というのである。そして、その結果、Aの血圧が急激に低下する事態となり、それに引き続いて心停止、さらに死亡という機序をたどったというのであるから、B医師には、Aの死亡という結果を避けるためにプロポフォールと塩酸メピバカインの投与量を調整すべきであったのにこれを怠った過失があり、この過失とAの死亡との間には相当因果関係があるというべきである。本件において、B医師がプロポフォールと塩酸メピバカインの投与量を適切に調整したとしてもAの死亡という結果を避けられなかったというような事情はうかがわれないのであるから、プロポフォールと塩酸メピバカインの投与量をどの程度減らすかについてB医師の裁量にゆだねられる部分があったとしても、そのことが上記結論を左右するものではない。原審は、塩酸メピバカインの投与量を減らしたとしても、その程度は麻酔担当医の裁量に属するものであり、その減量により本件心停止及び死亡の結果を回避することができたといえる資料もないから、死亡と因果関係を有する過失の具体的内容を確定することはできないとするけれども、上記のように、本件の個別事情に即した薬量の配慮をせずに高度の麻酔効果を発生させ、これにより心停止が生じ、死亡の原因となったことが確定できる以上、これをもって、死亡の原因となった過失であるとするに不足はない。塩酸メピバカインをいかなる程度減量すれば心停止及び死亡の結果を回避することができたといえるかが確定できないとしても、単にそのことをもって、死亡の原因となった過失がないとすることはできない。

判決

Aの死亡によって生じた損害の点について更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

コメント

ある診療行為(α)に悪しき結果の原因となった過失が認められると主張する場合に、他の具体的な診療行為(β)をしていれば結果を回避することができたことの確定を要求した原審の判断を覆した最高裁判例です。事例判断ではありますが、患者側の主張・立証の程度を緩やかに解した最高裁判例であり、大きな意義があるといえます。

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