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誤嚥による窒息事例

誤嚥による窒息事例

はじめに

今回は、誤嚥による窒息等の事例について、検討したいと思います。誤嚥して、窒息までに至らず助かるというケースや誤嚥後の即時の対応がよく、誤嚥以前の状態に回復している事例までいれると、たいていの介護施設や病院では起こり得る事故だと思います。ただ、稀に、窒息した状態で発見され、救命できず、患者さんや施設利用者さんが亡くなってしまうことがあります。
 今回は、誤嚥の医学的知見、誤嚥予防のマニュアル、裁判例を分析していきたいと思います。

誤嚥による窒息を防ぐには、①誤嚥予防と②誤嚥後の即時の対応が重要になります。裁判例では、①②ともに争われています。ただ、後述するように、食事形態でよく争われますが、ここで過失が認められることは稀で、基本的には、その際の見守りや、誤嚥後の対応で過失が認められやすい傾向にあると思います。

医学的知見等

誤嚥

定義

誤嚥とは、食べ物あるいは液体を飲み込む際に、本来の道筋である食道へ入っていくべきものが咽頭や気管という呼吸の通り道に入ってしまうことである。さらに、食べ物等が気管から肺の先のほうまで流れ込んで、炎症を起こすと肺炎になり、これを誤嚥性肺炎という。

誤嚥予防

誤嚥をふせぐためには、①味、温度などの点で刺激が強めの食事を出す、②小さめのスプーンを用意してひと口の量を減らす、③テレビを見ながらなどを避け、食事に集中させる、④食品にはとろみをつけたもの、もしくは半固形のものを選ぶ、⑤食事後2時間は上体を起こしておく、⑥よく歯磨きをする、などが有効で、これらの工夫が予防が誤嚥の予防につながる。

施設における食事中の誤嚥(厚生省:福祉サービスにおける危機管理に関する取り組み指針)

職員が目を離したすきに、あるいは、食事中に発作を起こして誤嚥につながったり、職員が大丈夫だろうと思っていたミキサー食がのどに詰まったり、利用者自身がみかんを丸のみして事故になったりというケースが多い。

発生の要因としては、利用者の食事の癖を知っていたが、見逃してしまったという利用者への注意不足や観察の不足などが挙げられる。また食堂施設の不備や食事自体への配慮が欠けていたという指摘もある。

対策としては、各テーブルに必ず職員がつくとか、誤嚥時の対応の再訓練の実施や救命器具の配備、食事摂取時の観察を十分行う、食材を小さくする、利用者個々の歯の状態を含めた嚥下状態の再確認などを行うといった対策が挙げられる。

嚥下障害

定義

飲み込むという動作を嚥下という。嚥下は食塊を口腔から咽頭、食道を経て胃に到達させる輸送動作であり、口腔期、咽頭期、食道期に分類される。

病態

嚥下障害が起こると、食物摂取障害による「栄養低下」と、食べ物の気道への流入(誤嚥)による肺炎(嚥下性肺炎、誤嚥性肺炎)が問題になる。また、高齢者の肺炎のかなりの部分は、加齢による嚥下機能の低下によって引き起こされる。

嚥下障害の症状

食べ物が飲み込みにくくなったとの自覚(嚥下困難)や、食事の時のむせ(誤嚥)が現れる。食事時間の延長、嗜好の変化などは嚥下障害に起因している可能性がある。

治療

機能異常への対応は、保存的治療と外科的治療がある。保存的治療としては、一口量、摂取速度、食物形態などの調整を行いながら、嚥下の意識化、嚥下への集中(テレビを消す、カーテンを引くなど)、姿勢調整、息こらえ嚥下、交互嚥下などを指導する。また、経口的に必要な水分、栄養量が確保できない場合には、代替栄養療法を併用する必要がある。
また、栄養摂取と誤嚥防止の観点から、嚥下障害が軽度な場合には、誤嚥が起こりにくいように、食べ物の形態を工夫し、水のようなものは誤嚥しやすいため、トロミを付ける。

窒息

定義

窒息とは、呼吸が阻害されることによって血中酸素濃度が低下し、二酸化炭素濃度が上昇して、脳などの内臓組織に機能障害を起こした状態をいう。

病態等

成人の窒息は、餅など、食べものをのどに詰まらせることが最も多く、飲み込む力が弱くなったお年寄りに高率である。
窒息の最初の症状は咳き込むことであるが、完全にのどに物が詰まると声が出なくなる。のどのあたりを両手でかきむしるような動作をすることもある。いびきのような音を出し、徐々に呼吸が弱くなることもある。顔が真っ青になったり、けいれんを起こしたり、意識がなくなることもある。

誤嚥・誤飲を防止するための安全推進マニュアル

家庭でできる簡単な摂食・嚥下障害の判断方法

社会社団法人全国老人保健施設協会の「家庭での誤嚥・誤飲を防ぐために」というパンフレットによると、嚥下とは、先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期という一連の過程をいい、これらの過程のどこかで一箇所に障害があれば、摂食・嚥下障害が生じる。
 そして、以下の(ⅰ)から(ⅴ)の事項に関し、①2期以上の項目、②咽頭期だけ、③食道期だけに該当する場合には、摂食・嚥下リスクは高リスクと判断され、①先行期と準備期の両方、②口腔期だけに該当する場合には、中等度リスクと判断され、先行期だけに該当する場合には、低リスクと判断される。

(ⅰ)先行(認知)期

先行期とは、食物を認識し、口まで食物を運ぶステージのことである。診断項目としては、以下の3項目である。

・食べ物を見ても反応しない
・絶え間なく食事を口に運ぶ
・ガツガツ食べる

(ⅱ)準備期

準備期とは、口腔内へ食物を取り込み、噛み切り、砕き、つぶし、唾液混ぜ合わせ、飲み込める状態にするステージのことである。診断項目としては、以下の4項目である。

・口の中に食事を取り込めない
・口から食物をよくこぼしたり、流涎がある
・口の中を開けてみると食物がそのままの形で残っている
・食後長時間経っているのに口の中に残っている

(ⅲ)口腔期

口腔期とは、食塊(咀嚼により飲み込める状態となった食物のこと)を口腔から咽頭に送り込むステージのことである。診断項目としては、以下の4項目である。

・盛んにモグモグするが飲み込めない
・モグモグしているとムセやすい
・上を向いて飲み込もうとする
・口を開けると食物残渣が目立つ

(ⅳ)咽頭期

咽頭期とは、食塊を咽頭から食堂内に送り込むステージのことである。診断項目としては、以下の5項目である。

・飲み込むとムセる
・嚥下後しばらくしてムセる
・嚥下後、痰のからんだような声になる
・固形食よりも水分でムセる
・濃厚な痰がよく出る

(ⅴ)食道期

食道期とは、食塊を食道から胃の中に送り込むステージのことである。診断項目としては、以下の3項目である。

・就寝してからムセる
・肺炎(発熱)を繰り返す
・飲んだものが逆流し、嘔吐することがある

食事等摂取時の注意事項

食事介助時のリスクマネジメント(誤飲・誤嚥防止)(家庭編)

社会社団法人全国老人保健施設協会の「家庭での誤嚥・誤飲を防ぐために」というパンフレットによると、食事介助時のリスクマネジメント(誤嚥・誤飲防止)として、以下の注意事項が記載されている。

見守り

・「むせる」「飲みにくい」「咳」「嘔吐」などの誤嚥のサインを見逃さない。
・食事は覚醒時に時間をかけてゆっくりと行いましょう。

食事姿勢

・食事中の姿勢保持が大切です。
①座位姿勢を整える
②車いすの場合は、足の裏全体を床に下ろす(姿勢の改善)
③体幹と頸部を正中位に保ち、頸部の進展を避ける

食事のペースと一口量

【ペース】
対象者がゆっくりと食事がとれるような配慮が必要です。症状、病態に合せたペースで介助します。

【一口量】
1回に口に入れる量は多すぎると嚥下できないこともあり、また誤嚥を起こしやすくなります。逆に少なすぎると時間がかかり、対象者が疲れてしまします。さらに適切なスプーン(先の小さなもの)や自助具の使用も必要です。

食事形態

対象者の症状、病態に合せた食事形態のメニューを検討しましょう。

【水分・食べものの形状】
ペースト・とろみ・ゼリー等

【温度】
お湯やお茶は熱すぎるものは避ける。体温±15~20℃の温度が良好に食べられる。

【窒息しやすいもの】
パン・餅・こんにゃく・カステラ等

小括

以上のように、誤嚥リスクのある高齢者に対しては、食事摂取の際、家庭で、見守り、食事姿勢、食事のペースと一口量、食事形態等に配慮しなければならないのである。

食事等摂取時の誤嚥・誤飲、窒息(防止対策)(施設編)

社会社団法人全国老人保健施設協会の「介護老人保健施設安全推進マニュアル(誤嚥・誤飲を防止するために)」というパンフレットによると、食事等摂取時の誤嚥・誤飲、窒息に対する防止策として、以下の注意事項が記載されている。

食事姿勢

(予防)食べものが気管に入ると、窒息や肺炎の原因となります。食事をとるときの利用者の姿勢に気を配りましょう。

(防止対策)食事中の姿勢保持が大切です。
・座位姿勢と整える
・車椅子の場合は、足を床に下ろす(姿勢の改善)
・体幹と頸部を正中位に保ち、頸部の進展を避ける
・食後も、一定時間は姿勢を保持し観察をすること

ケア提供者の技術向上

(予防)ケア提供者の食事介助の方法が、事故の要因となることもあります。正しい技術と、利用者へ気配りが大切です。

(防止対策)利用者の食事のペースと量を配慮しましょう。
【ペース】
食事の介助がケア提供者のペースになりがちですが、利用者がゆっくりと食事がとれるような配慮が必要です。食事は、健常者に比べて時間がかかることをしっかり認識し、利用者の病状・病態に合せたペースで介助します。

【1回量】
1回に口に入れる量は、多すぎると嚥下できないこともあり、また、誤嚥をおこしやすくなります。逆に少なすぎると時間がかかり、利用者が疲れてしまいます。一口ごとに飲み込めたか、口腔内を確認しましょう。また、適切なスプーン(たとえば先の小さなもの)や自助具等も使用も必要です。

食事形態

(予防)食べ物や飲み物の形状や性状、大きさなど、食べる物自体の形態は事故の要因となります。飲み込みにくいもの、詰まりやすいもの、誤って気管に入りやすいものなど、常に検討を怠らないことが重要です。

(防止対策)利用者の病状・病態に合せた食事形態のメニューを検討しましょう。

【水分・食べものの形状】刻み・みじん・ペースト・とろみ・ゼリー等
【温度】お湯やお茶は熱すぎるものを避ける
【窒息しやすいもの】パン・餅・こんにゃく・カステラ等

予防の工夫

・食事は覚醒時に時間をかけてゆっくり行う
・個々の食事摂取状況を十分に把握して介助する
・食堂における観察範囲内の分担を行って、まんべんなく見守る
・利用者同士でのお菓子のやり取りが無いか配慮する
・リラックスして食事できる環境を作る(室温・採光・音楽・花を飾る等)
・急がせたり、焦らせることなく、ゆっくり食事できる雰囲気を作る
・気づいた事や状態の変化などは、常に情報交換しあう
・お茶の飲用など、介助に工夫をする
・常に吸引可能な状態にしておく
・入れ歯の状態を確認する
・口腔ケアを適切に行う
・家族、面会者に協力をもとめる(誤嚥しやすいものを差し入れないように)

小括

以上のように、介護老人保健施設において、食事等摂取の誤嚥・誤飲、窒息の防止対策として、(ⅰ)食事姿勢(ⅱ)食事のペースと量(食事介助)(ⅲ)食事形態等に配慮しなければならないのである。

裁判例

医師及び看護担当者は、患者の摂食・嚥下障害のリスクを評価し、リスクに応じ、摂食・嚥下障害の悪い患者に対し、患者が誤嚥することがないように注意深く見守るべき注意義務がある(松山地方裁判所平成20年2月18日判決:判例タイムズ1275号219頁)。

看護師としては、患者が誤嚥して窒息する危険を回避するため、介助して食事を食べさせる場合はもちろん、患者が自分一人で摂食する場合でも、一口ごとに食べ物を咀しゃくして飲み込んだか否かを確認するなどして、患者が誤嚥することのないように注意深く見守るとともに、誤嚥した場合には即時に対応すべき注意義務があり、仮に他の患者の世話などのために患者の許を離れる場合でも、頻回に見回って摂食状況を見守るべき注意義務があったというべきである(福岡地方裁判所平成19年6月26日判決:判例タイムズ1277号306頁)。

結語

以上のとおり、誤嚥による窒息を防ぐには、誤嚥しにくいものを食べるという予防も考えられるが、基本的には、できる限り、患者さんや利用者が通常の食事を食べられるような方向で考えていくことが望ましいとされ、食事の種類・形態に関する過失は認められにくく、そのような物を食べる際の、誤嚥リスクの評価をして、それを防ぐために、見守り、介助等を注意していくという方向で考えられる傾向にある。

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