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肺塞栓

肺塞栓

はじめに

今回は、肺塞栓その中でも特に肺血栓塞栓症について書いていきます。肺塞栓とは、肺動脈が何らかの塞栓子により閉塞する疾患であり、塞栓子が血栓である場合、肺血栓塞栓症と呼びます。肺血栓塞栓症が発症した場合死亡率が高いことから、静脈血栓塞栓症の予防が重要になりますが、適切な予防法を行っても完全な静脈血栓塞栓症の予防は困難です。そこで、裁判例では、適切な予防処置をしたか否かの過失や死亡との間の因果関係が問題とされます。

そこで、第2で、肺血栓塞栓症に関する医学的知見、第3で、裁判例を書いていきます。

医学的知見~肺血栓塞栓症

概念,原因等

肺塞栓症とは,肺動脈が何らかの塞栓子により閉塞される疾患であり,塞栓子が血栓である場合,肺血栓塞栓症という。肺血栓塞栓症の原因のほとんどは深部静脈血栓塞栓症であり,長期臥床からの体位変換時に発症することが多く,急激なSpO2(酸素飽和度)の低下を来すところ,入院患者における静脈血栓塞栓症の危険因子として,肥満,エストロゲン治療,下肢静脈瘤,高齢,長期臥床,静脈血栓塞栓症の既往や下肢麻痺などが挙げられており,このうち,危険因子の強度は,肥満は低レベル,長期臥床は中等度,下肢麻痺は高レベルとされている。また,脳卒中患者に予防を行わなかった場合,我が国において,脳卒中関連の肺血栓塞栓症の頻度は0.21 ないし0.45%とする報告があるほか,脳卒中後の下肢深部静脈血栓症の頻度を55ないし61%とする報告もある。肺血栓塞栓症が発症した場合の死亡率は高いことから,静脈血栓塞栓症の予防が重要であるが,適切な予防法を行っても完全な静脈血栓塞栓症の予防は困難であるとされている。

予防法

静脈血栓塞栓症の予防は,血液凝固活性の調節及び下肢への静脈うっ滞の防止を目的として行われる。ガイドラインにおいて,静脈血栓塞栓症の予防法には理学的予防法と薬物的予防法があり,理学的予防法には,早期離床及び積極的な運動,弾性ストッキングの使用並びに間欠的空気圧迫法等があるとされる。深部静脈血栓塞栓症の予防法は弾性ストッキング着用が主流となっている。

理学的予防法

早期離床及び積極的な運動
早期離床が困難な患者には,静脈灌流を促進するために下肢の挙上,マッサージ,足関節運動を実施するのが効果的であり,このうち下肢(特に足関節)を自動運動させることが最も効果があると報告されているが,自動運動ができない場合には,マッサージとともに徒手的に他動運動を行うとされている。

弾性ストッキングの使用
弾性ストッキングは,下肢を圧迫して静脈の総断面積を減少させることにより,静脈の血流速度を増加させ,下肢への静脈うっ滞を減少させるほか,静脈うっ滞や静脈拡張の結果生じる静脈内皮の損傷を防止するものであり,入院中は,術前術後を問わず,リスクが続く限り24 時間着用を続けるとされている。静脈血栓塞栓症の予防に弾性包帯を用いる場合もあるが,弾性ストッキングが足の形,サイズに合わず,動脈ないし静脈を圧迫する可能性がある場合や,下肢の手術や病変によりストッキングを使用できない場合などの弾性ストッキングが使用できない特殊な場合を除いては,弾性ストッキングを使用するのがよいとされる。

脳神経外科手術を受ける患者における弾性ストッキング着用のみによる予防効果は,対照群に対する相対的なリスク減少率が60%であるとする報告もされており,我が国においては,平成16 年より,肺血栓塞栓症の予防を目的とする弾性ストッキング着用が医科点数収載され,保険が適用される予防法となっている。

間欠的空気圧迫法
間欠的空気圧迫法は,下肢に巻いたカフ(加圧帯)に機器を用いて空  気を間欠的に送入して下肢をマッサージするものであり,弾性ストッキングと同様の効果をもたらし,また,線溶活性を亢進させる作用もあるとの報告がある。

間欠的空気圧迫法は,深部静脈血栓塞栓症の予防に非常に有効と考え られ,間欠的空気圧迫法のみによる予防効果は,対照群に対する相対的なリスク減少率が66%とされている。

薬物的予防法

薬物的な予防法は,ヘパリン等の抗凝固剤の投与を行う抗凝固療法である。もっとも,頭蓋内出血の疑いのある患者に対するヘパリンの投与は原則禁忌とされており,出血性脳血管障害患者のような抗凝固剤の使用禁忌例に対する肺血栓塞栓症の予防法としては,弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法といった理学的予防法が推奨されている。

治療法

肺血栓塞栓症が発症し,SpO2の低下や顔面チアノーゼ等の急変が生じた場合においても,一般的な急変の場合と同じく,気道確保措置を執ることが最重要となる。

裁判例(H21.9.29大阪地裁、判タ1319.211)

① 脳出血により入院中の患者が肺血栓塞栓症により死亡したことについて,医師に肺血栓塞栓症の予防措置を執らなかった注意義務違反が認められ、②上記注意義務違反と死亡との間の因果関係が否定され,死亡時点で生存していた相当程度の可能性が認められた事例

① ガイドラインが平成16年6月には提言され,医療現場においても周知されていたこと,一定程度の確率で下肢深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症を発症する危険を有する脳卒中患者であり,かつ,一定程度の期間の臥床が予定されていたこと,同人には,右下肢麻痺及び肥満という肺血栓塞栓症の危険因子があったことが認められ,これらの事実からすれば,本件病院医師らは,患者が入院した時点において,患者に肺血栓塞栓症が生じる危険性が高いことを具体的に予見することが可能であったと評価することができる。そして,肺血栓塞栓症がいったん発生した場合の死亡率は高いこと,本件当時,ガイドラインによれば弾性ストッキングの着用が推奨され,我が国における肺血栓塞栓症の予防法の主流は弾性ストッキングであったこと,弾性ストッキング着用は保険が適用される予防法となっていたことに照らして考えると,本件当時の臨床医学の実践における医療水準としては,弾性ストッキングないし弾性包帯の着用が一般的標準的な予防法となっていたものと考えられる。そうすると,医師らは,上記医療水準に照らし,肺血栓塞栓症の予防のため,入院時から弾性ストッキングないし弾性包帯を着用させる注意義務を負っていたというべきである。ところが,本件医師らには,これを怠り,弾性ストッキングないし弾性包帯を着用させなかった過失がある。

② 医師らの注意義務違反と患者の死亡との間に相当因果関係を認めることはできないというべきである。しかしながら,他方で,肺血栓塞栓症の予防法として有効と考えられていること,ガイドラインにおいても弾性ストッキングの着用が推奨されていること,脳神経外科手術を受ける患者における弾性ストッキング着用のみによる予防効果は,対照群に対する相対的なリスク減少率が60%であるとする報告もあることからすれば,弾性ストッキングないし弾性包帯を着用することが,肺血栓塞栓症の予防効果を全く発揮しないとまでは認めることもできず,本件においても,患者に弾性ストッキングないし弾性包帯を着用させていた場合に患者が肺血栓塞栓症を発症せずに死亡しなかった可能性は,なお相当程度存在するものと認められる。

まとめ

前記裁判例から言えることは、一定の肺血栓塞栓症になるリスクを有する患者の場合に、弾性ストッキングや弾性包帯を着用させなければ過失自体は認められます。ただ、弾性ストッキングの有用性はあるものも、あくまで予防処置であり、塞栓するリスクを低減させるにとどまるから、過失と死の因果関係は認められず、死亡時点で生存していた相当程度の可能性が認められるにとどまります。

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