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TOLAC(帝王切開後経膣分娩試行)とは|失敗した事案の裁判例

TOLAC(帝王切開後経膣分娩試行)とは|失敗した事案の裁判例

TOLAC(帝王切開後経膣分娩試行)とは

TOLAC(Trial of labor after cesarean section)とは、帝王切開既往のある妊婦が経膣分娩を試みることをいい、この試みが成功した場合をVBAC (Vaginal birth after cesarean delivery)といいます。
TOLACには、母体の子宮破裂や児の脳性麻痺といった重大なリスクがあるため、実施するうえでの準則のようなものがあります。

TOLACのメリット

入院期間が短縮できること
疼痛が減少すること
出血量と輸血使用量が少なくなること
母児の感染のリスクが低いこと
分娩後血栓症発症リスクが低いこと
癒着胎盤など帝王切開反復による合併症のリスクが低いこと

TOLACのデメリット

子宮破裂(後に詳記)
子宮摘出
出血量、輸血量が多くなること
母児の感染のリスクが高いこと
児の臍帯動脈血pHが低下すること
児のアプガースコアが低下すること
児の死亡率が高いこと(約0.5%。予定帝王切開の約1.7倍)

とりわけ子宮破裂のリスクには注意が必要

ある文献によれば、帝王切開の既往がない妊婦は子宮破裂の頻度が0.01%とされているのに対し、帝王切開の既往がある妊婦は子宮破裂の頻度が0.15~1.6%とされており、後者の子宮破裂の危険は前者の約10~100倍にもなります。

また、帝王切開の既往がある妊婦が予定帝王切開を行った場合の子宮破裂の頻度が0.16%とされているのに対し、帝王切開の既往がある妊婦が自然に陣痛が発来するのを待って経膣分娩する場合の子宮破裂の頻度は0.52%とされており、後者の子宮破裂の危険は前者の約3倍にもなります。

文献によって数値にバラつきがありますが、TOLACの子宮破裂リスクは高いといってよいでしょう。
そして、ひとたびこのリスクが現実化し子宮破裂が起こった場合、母児が重篤な転帰を辿ることが多々あります。
目下当職において係争中の案件のなかにも、TOLACの結果、子宮破裂し、児が脳性麻痺に陥ったというものがあります。

※このような場合のために、産科医療補償制度という制度が設けられています。

ガイドラインによるTOLACの準則

日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会が共同で編集・監修した『産婦人科診療ガイドライン―産科編2014』(以下、単に「ガイドライン」といいます。)によれば、TOLACは次の準則に従って実施されるべきものとされています(2014年版ガイドラインCQ403)[1]

リスク内容を記載した文書によるインフォームドコンセントを得る。(A)
以下の要件をすべて満たしている場合に、経膣分娩をトライアルできる。(C)
 1)児頭骨盤不均衡(CPD)がないと判断される。
 2)緊急帝王切開及び子宮破裂に対する緊急手術が可能である。
 3)既往帝王切開回数が1回である。
 4)既往帝王切開術式が子宮下節横切開で術後経過が良好であった。
 5)子宮体部筋層まで達する手術既往あるいは子宮破裂の既往がない。
分娩誘発あるいは陣痛促進の際に、プロスタグランジン製剤を使用しない。(A)[2]
経膣分娩選択中は、分娩監視装置による胎児心拍数モニターを行う。(A)[3]
経膣分娩後は、母体のバイタルサインと下腹痛に注意する。(B)[4]
上記文中、(A)、(B)、(C)は推奨レベルであり、一般論として、(A)は「強く勧められる」、(B)は「勧められる」、(C)は「考慮される」を意味します。

ただ、ここでの(C)は、「すべてを満たす患者にのみ行うことが望ましいが、すべてを満たさない患者においても、その医療行為が選択肢として排除されているわけではない」という意味であり(ガイドライン「本書を利用するにあたって」)、単に「考慮される」にとどまらない、比較的通用力の高い準則であることには注意が必要です。

TOLACが失敗した事案の裁判例(東京地判平2年3月12日(判タ734号210頁)

TOLACが失敗した事案についての裁判例、具体的には、帝王切開既往のある妊婦について、予定帝王切開による分娩とせず、経膣分娩を試みたものの、子宮破裂し、児が死亡するに至った事案に関する裁判例を1つ紹介します。

分娩の日

昭和59年1月20日

結果

母、子宮破裂
児、死亡(死産)

経過

【午後0時頃】陣痛自然発来
【午後1時過ぎ】入院
【午後5時頃】医師が帰宅し医師が一人も在院しない状況に
【午後7時40分】子宮口全開大
【午後8時過ぎ頃】医師に架電するも応答せず
【午後9時過ぎ頃】胎児心拍数低下
【午後9時15分頃】分娩進行せず、早く娩出させて欲しいと母が要請、助産師が医師に架電するも、一人は応答なし、他の一人は応答しオキシトシンによる陣痛促進を指示。
【午後9時15分過ぎ】医師の指示に従いオキシトシン投与開始
【午後9時30分頃】胎児心拍数が陣痛終了後1分以上回復しない状態が現出
【午後9時40分頃】胎児心拍数低下が顕著に、それまでとは異質の強い痛みが現出
【午後9時45分頃】胎児心拍数回復しない状態が顕著に。医師に架電し児頭が下がってきたが怒責が入らず分娩が進行しないことを報告(児心音の乱れについては報告せず)。医師は吸引分娩の準備を指示。
【午後9時55分頃】児心音乱れへの対処として酸素吸入開始
【午後11時】医師が来院、吸引分娩を3回試みるも娩出できず
【午後11時10分】緊急帝王切開決定、オキシトシン投与中止、ブドウ糖点滴投与開始
【午後11時30分】手術室へ転室
【翌日午前0時頃】執刀開始、子宮破裂と胎児脱出を確認
【翌日午前0時8分】胎児を娩出するも既に死亡

裁判所の判断

【過失1】帝王切開既往のある場合に経膣分娩をするときには、子宮破裂が起こりやすく、胎児死亡や母体死亡が起こりやすいので、帝王切開の準備をしたうえで分娩状況の異常を監視するべきであるにも拘らず、医師が在院せず、これを怠った。

【過失2】帝王切開既往のある場合にオキシトシンを投与するときは、過強陣痛による子宮破裂や胎児仮死が起こりやすいので、オキシトシン投与をするとしても、分娩監視装置によって陣痛や胎児心拍等を監視して過強陣痛を招かないように注意して投与をし、過強陣痛が疑われれば直ちに投与を中止するべきであるにも拘らず、投与前の診察をせず、また、投与後には助産師と看護師のみによる不十分な監視しかせず、これを怠った。

【過失3】分娩状況を監視し子宮破裂等の危険が認められた時点で直ちに帝王切開に切り替えるべきであるにも拘らず、医師が在院せず、これを怠った。

上記の【過失1】及び【過失3】と子宮破裂、胎児死亡の間の因果関係がある。

損害額は1000万円である(請求額3000万円)。

参考文献
『産科婦人科診療ガイドライン―産科編2014』(日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会、2014)
岡井崇・綾部琢哉編『標準産科婦人科学』515~516頁(医学書院、第4版、2011)
石原理他編『講義録 産科婦人科学』366~367頁(メジカルビュー社、第1版、2010)
『今日の治療指針』(医学書院、2011年版)「帝王切開後経膣分娩」

[1] そもそも、医療過誤訴訟(診療契約の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求訴訟)が認容されるには、過失ありと認定されることが必要です。そして、この過失は、当該診療行為が、当時、医療水準に適っていたか否か、により決せられます(最三判昭和57年3月30日など)。そして、産科事件の医療水準を画するにあたって大いに参酌されるのが、ガイドラインなのです。ただ、大いに参酌されるにすぎず、これのみによって医療水準が画されるわけではないことには注意が必要です。

[2] プロスタグランジン製剤を使用した場合に子宮破裂のリスクが有意に高いため。
[3] 子宮破裂等の徴候を少しでも早く捉えるため。
[4] VBAC後に子宮破裂が顕在することもあるため。

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