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療養指導としての説明義務

療養指導としての説明義務

医師の「説明義務」には、治療行為の実施前になされる説明義務のほか、退院する患者等に対し、適切な療養を確保するためにすべき説明義務もあります。
前者の説明は、ある治療行為を受けるか否かについて患者自身が適切に判断できるよう情報を提供するもので、患者の自己決定権の尊重を目的としています。他方、後者の療養指導としての説明義務(以下、「療養指導義務」といいます。)は、適切な指導により、療養中に生じうる結果(病状の急変による死亡)などを避けることを目的としています。
療養指導は、退院時のほか、入院中の外泊、救急や通院による診察後、また自宅療養中の場面でも問題となります。

この療養指導義務については、医師法23条に規定され、「医師は、診察をしたときは、本人又はその保護者に対し、療養の方法その他保険の向上に必要な事項の指導をしなければならない。」とされています。ただ、この規定は、医師が国との関係で義務を負うことを定めたものです。そのため、この規定が直ちに、患者からの民事上の責任追及の根拠となるものではありません。しかし、医師は、診療契約上も、適切な療養指導をする義務を負いますので、義務違反による民事上の責任を負うこととなります(診療契約がない場合も「条理」によって義務を負うと考えられます)。

では、どのような内容の説明がされていれば、療養指導を尽くしたといえるのでしょうか。
療養指導義務についても、治療行為と同様、診療当時の臨床上の医療水準によって判断されます。そして、療養指導義務を負う内容は、生じてしまった結果について、医師が予測しえたことが前提とされます。
裁判上、療養指導義務が問われ、義務違反が認められたケースも複数あります。
そして平成7年、最高裁においても義務違反を肯定する判断が示されました(最判平成7・5・30)。

事案は、開業医の下で出生した未熟児が、黄だんのある状態で退院後、核黄だんに罹患し脳性まひの後遺症を負ったというものです。核黄疸は、死に至る危険も大きい疾患で、新生児に黄だんが認められる場合(未熟児であれば特に)には、慎重な経過観察が求められます。ところが、本件での退院時の医師の説明は、「何か変わったことがあったらすぐに当該医師あるいは近所の小児科の診察を受けるように。」といった程度でした。
原審では、新生児に生じうる様々な致命的疾患の全てについて専門的な知識を与えることは不可能などといった理由から、上記のような抽象的な説明でも足りるとし、過失を否定しました。
しかし、考え得る全ての疾患について詳細な情報を提供することはできないにしても、本件では核黄だんの原因となりうる黄だんの症状があり、しかもより注意を要する未熟児という事情がありました。そのため、退院により医師の管理下から離れてしまう以上、核黄だんについて家族が適切な対処をしうるだけの説明がされるべきといわざるをえません。

この点について最高裁は、退院させたこと自体の相当性についても疑問を呈した上で、療養指導についても、

  • 黄だんが増強することがありうること、黄だんが増強して哺乳力の減退などの症状が現れたときは、重篤な疾患に至る危険があることを説明し、
  • 黄だん症状を含む全身状態に注意を払い、黄だんの増強や哺乳力の減退などの症状が現れたときは速やかに医師の診察を受けるよう療養指導すべき義務を負っていた

として、過失を肯定しました。

なお、最高裁は、判断に当たって、母親が黄だんがでることに不安を抱いていたことや、医師の血液型検査(核黄だん発症の予測の一資料となります)の判定に誤りがあったこと、医師が黄だんについて「心配ない」といった説明をしていたことにも触れており、そのような事情も過失の肯定に一定程度影響していると思われます。

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