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未破裂動脈瘤とは|原因・診断・治療に関する裁判例

未破裂動脈瘤とは|原因・診断・治療に関する裁判例

未破裂動脈瘤とは

未破裂動脈瘤とは、脳動脈が部分的に瘤状などに拡大・拡張したものであり、血管の分岐部に発生しやすい性質があり、特に内頸動脈と後交通動脈分岐部、中大脳動脈分岐部、前交通動脈の3つの部位が好発部位です。

自覚症状がない場合も多いですが、大きくなると神経を圧迫し複視や視野障害などの症状が発生することがあります。
また、動脈瘤が破裂するとクモ膜下出血を発症し、患者が死亡したり重篤な後遺障害を残すことが多いです。

未破裂動脈瘤の原因

脳動脈瘤は、先天的な動脈壁の中膜欠損に、後天的な要因(高血圧、動脈硬化、喫煙、遺伝性の因子など)や血管内皮の修復障害が加わり形成されると考えられています。

未破裂動脈瘤の診断方法

40~60歳に好発。
動脈瘤による圧迫症状が発生するものを症候性と呼び、散瞳、複視、眼瞼下垂が見られたり、視力・視野障害などが見られます。その場合、脳血管撮影のほか、MRA、3D-CTAにて非侵襲的に動脈瘤が確認できます。
また、無症候性のものは、自覚症状がなく脳ドックなどで偶然発見されるケースもある。

未破裂動脈瘤の治療法

動脈瘤が小さいうちなどは血圧をコントロールするなどして経過観察を行うことが多いですが、動脈瘤の大きさが5~7mmを超える動脈瘤や不整形なもの、bleb(突出して膨れている部位)を伴うもの等は破裂の危険が大きいため、予防的に開頭動脈瘤頸部クリッピング術(直接に動脈瘤をクリップで挟んで破裂を防ぐ手術)や動脈瘤コイル塞栓術(動脈瘤内にコイルを詰めて塞栓する血管内手術)を行う必要があります。

開頭動脈瘤クリッピング術は、根治治療としての確実性は高い一方で侵襲性が高いので高齢者などに対しては不向きな治療法です。

未破裂動脈瘤の治療に関する医師の注意義務

術式選択に関する注意義務

未破裂動脈瘤は、破裂した場合にはクモ膜下出血を伴い致命的な状況となることが多い一方で、手術適応については基準が明確には確立されていないため、医師は手術適応を慎重に見極め術式の選択を行う必要があります。

裁判では、手術適応をめぐる医師の注意義務違反の有無を巡り争われることがありますが、これを認めた例はそれほど多くありませんが、無症候性の未破裂動脈瘤に対する架橋静脈の切断を伴うクリッピング術が行われた場合に手術適応がなかったとした例(東京地裁平成12年5月31日判タ1109号214頁)があります。

手技に関する注意義務

手術手技における医師の注意義務違反の有無をめぐり争われることもあります。
手技における医師の注意義務違反が認められた裁判例としては、①京都地判平成12年9月8日判タ1106号196頁、②名古屋地判平成23年2月18日、③名古屋地判平成24年2月17日、④福岡地裁大牟田支判決平成14年4月9日 判タ1092号246頁などがあります。

説明義務

予防的な手術手技による治療には医学的に明確な適応基準が確立されていないことから、医師は患者に対し、術式ごとの利害得失につき具体的かつ十分な説明を行い患者に十分な理解をさせたうえで、手術を受けるのか否か、手術を受けるとしてもどの手術をどの時点につき受けるべきかについて明確な同意を受けるべきです。

裁判において、医師の説明義務違反の有無が争われる事案は少なくなく、説明義務違反を認めた判例・裁判例としては①最判平成18年10月27日 判時1951号59頁②札幌地判平成15年7月25日などがあります。

最二判平成18年10月27日(認容額800万円(差戻審))

事案

未破裂脳動脈瘤に対する開頭によるクリッピング術を予定されていた患者が、手術実施日の前日にコイル塞栓術に術式を変更する旨を説明され、コイル塞栓術を受けたところ、術中に脳梗塞を生じ死亡するに至ったものである。

判旨

担当医師には、患者が開頭手術の危険性とコイル塞栓術の危険性を比較検討できるように、コイル塞栓術及び開頭手術それぞれに伴う問題点について具体的に説明する義務があり、さらに開頭手術とコイル塞栓術のいずれを選択するのか、いずれの手術も受けずに保存的に経過を見ることとするのかを熟慮する機会を改めて与える必要があったというべきである。

評価

治療を実施する医師の説明義務の内容として、治療に伴う危険性のみならず、熟慮する期間を改めて与えるという時間の概念を導入したものと考えられますが、この点について、患者に予防的な療法を実施するに当たって、医療水準として確立した療法が複数存在する場合には、そのうちの1つの療法を選択するか、又は、保存的に経過を見るという選択肢も存在し、そのいずれを選択するかは、患者自身の生き方や生活の質にもかかわるものでもあるし、また、選択をするための時間的な余裕もあるとしています。

なお、「熟慮」するための期間とは具体的にどの程度であるのかは今後の事例の集積を待つほかない。

札幌地判平成15年7月25日(認容額1100万円)

事案

Yの経営する病院において脳動脈瘤根治手術等の手術を受けたXが、手術後、脳梗塞による左上下肢の機能が全廃するなどの後遺障害を負ったものである。具体的には以下の通りである。

Xらは、医師らから、本件手術を受けるに当たりある程度の危険はあるであろうが、その危険の度合いは5パーセントから10パーセントであると言われ、このまま放置しておくと頭に爆弾を抱えているようなものだから手術をした方が良いと勧められた。Xの夫は、手術の危険とは、術中に脳動脈瘤が破裂してクモ膜下出血になるようなことであり、その度合いが5パーセントから10パーセントであるのは低い確率であると理解した。そして、Xらは、本件手術の方法、内容及び危険性について図面を示されて説明を受けたが、手術の難しさについては、陰になったりした部分があると難しいという程度の説明しかなく、術中に脳動脈瘤が破裂する危険があることや破裂した場合には母血管の一時血流遮断を行うこと、血管を閉塞してしまうと脳梗塞等の後遺障害が生じる可能性もあることについての具体的な説明はなかった。また、未破裂の脳動脈瘤が破裂する危険については、万一破裂した場合には回復困難な事態になることが予想されるとの説明があったが、その年間出血率について具体的な数字を挙げての説明はなかった。

判旨

一般論
医師が患者に対して手術等の医的侵襲を伴う医療行為を行う場合は、それが患者の生命や健康、精神に重大な影響を及ぼすものであるから、特段の事情のない限り、当該医療行為について患者が同意していることが必要であるところ、この同意は、自己の人生の在り方は自らが決定することができるという自己決定権に由来するものであるから、医師は、患者の同意を得る前提として、患者が十分な情報に基づいて医療行為を受けるか否かを決定することができるように、患者の症状、医療行為の内容、効果及び必要性、医療行為に伴う困難ないし危険、医療行為を行わない場合の具体的な予後の内容等を患者に説明すべき義務を負っているものと解される。そして、その説明の具体的内容及び程度は、当該医療行為の医的侵襲の重大性、難易度、治療の必要性、緊急性、患者の医学的知識の認識度等に応じて、各医療行為ごとに判断するのが相当である。

あてはめ
上記認定事実のように、担当医師は、手術後想定される後遺障害及びその可能性について具体的な説明をしておらず、また、動脈瘤が破裂する可能性がどの程度かを理解し得る具体的な数値を挙げていないことから、説明内容が、動脈瘤が破裂した場合の怖さがより鮮明に印象付けられるものであったとして説明義務違反を認めている。

評価

この事案で認定されている手術についての説明内容は、抽象的なものであり、説明義務違反が認められることにはほぼ異論がないところであるように思われます。

なお、この他の肯定例では医師の説明義務の加重要素として、当該患者固有の危険性や術式の未確立や説明と手術実施時期の接近などを指摘していることが多いようです。

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