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東京三弁護士会の医療ADRの利用状況と活用方法

東京三弁護士会の医療ADRの利用状況と活用方法

伝統的な紛争処理方法

紛争処理手段には、交渉・調停・訴訟がありますが、この3つの紛争処理には従来から問題点が指摘されていました。

まず、交渉は、当事者双方の交渉姿勢次第では迅速に紛争を処理でき、かつ費用も低廉です。しかし、迅速に解決できるかどうかは当事者の交渉姿勢にかかっており、また、話し合いを仲介する第三者がおりませんので、話し合いが平行線をたどった場合、交渉決裂で終わることも珍しくありません。つまり、紛争が解決しないということです。

次に、調停は裁判所を中立的な第三者として関与してもらう話し合いです。裁判所が関与していても法的強制力のある判決をくだすわけではなく、あくまでも基本は話し合いです。なので、本質的には交渉と同じなのですが、単なる交渉と違うのは、裁判所という公的機関が関与してくれるので話し合いがまとまりやすいことや、合意に達した場合に判決と同じ効力が付与されているので、合意に法的強制力がある点です(具体的には、相手方が合意の内容を履行しない場合、強制執行が可能となります)。ただ、当事者間の合意が得られなければ紛争の解決にならないという意味においては交渉と同様の限界があり、また、裁判所という公的機関を利用するので一般的に長期化する傾向にあります(調停の期日は月に1回程度しか開かれません)。

この点、訴訟は裁判所が強制力のある判決を出してくれるので、紛争を終局的に解決する能力という点では最も優れています。ただ、当然ですが、当事者間の対決姿勢も最も強く、また判決内容に対する敗訴者側の納得感がなく、最も長期化する紛争処理手続きであると言えます。また、訴訟では、法的主張を展開する必要があることから、通常は弁護士などの専門家の協力が必要で費用も高額になります。

東京三弁護士会の医療ADRとその限界

このように、伝統的な紛争処理方法には、利点もあるものの大きな限界もあったことから、紛争解決機関として、いわゆるADRが期待されるようになり、医療紛争の分野でもADRが立ち上がるようになりました。

東京三弁護士会の医療ADRはそのひとつです。あくまでもADRなので、裁判所のように強制力のある判決を出せるわけではないのですが、裁判所のような国家機関ではないため柔軟性があり、また、その分野の専門家が中立的な立場で関与することになっているため、医療など専門性が高い紛争にはADRは向いていると言えます。

東京三弁護士会の医療ADRの場合、医療紛争を得意とする医療機関側・患者側の弁護士がこの手続きに双方関与して中立観を出しているようです(ちなみに、東京三弁護士会とは、東京弁護士会・第一東京弁護士会、第二東京弁護士会のことを指します)。

さて、この医療ADRは、2007年9月に発足しましたが、その利用状況と実績はどうでしょうか。
今、私の手元に2007年9月から2009年4月までの約1年7ヶ月間の資料がありますが、それを見ると、この期間に申し立てられた件数は72件。この件数を多いと見るか少ないと見るかは意見の分かれるところですが、知名度の高い制度ではないので、申立件数をあまり問題にしても意味はないと思います。

問題はその中身ですが、申立件数のうち、患者側の申立が69件だったのに対し、医療機関側からはわずか3件でした。したがって、医療機関からはあまり信用されていない制度だと言えます。

そして、この72件のその後の展開がすごいんです。何と、25件が不応諾。つまり、ADRの交渉テーブルにすらついていない、拒否されているんですね。調停で言えば不出頭です。申立件数の実に約3分の1がADRの活用を拒否しているという数字です。申立のほとんどが患者側からなされていることに照らせば、ADRの活用を拒否しているのは医療機関側だと思われます。

これはちょっと意外な数字でした。医療機関としては訴えられるよりははるかによいと思いますし、また強制力のある判決がくだされるわけでもないで、とりあえずADRの交渉テーブルに着いてもよさそうな気がするのですが、東京三弁護士会が提供する医療ADRは、かくも医療機関から支持されていない制度だといってよいと思います。

2011年の東京三弁護士会の医療ADR利用状況

東京弁護士会発行の雑誌「LIBRA11月号」に最新情報が掲載されておりましたのでご紹介します。あくまでも2011年8月時点での最新情報なのでご注意ください。

東京三会方式

一般斡旋人1名、患者側代理人の経験弁護士1名、医療機関側代理人の経験弁護士1名の合計3名の斡旋人。

※患者側代理人、医療機関側代理人というのは、患者側、医療機関側それぞれの代理人弁護士をつとめた豊富な経験を有する弁護士であって、当該紛争の当事者の代理人とは関係ありません。

※原則として、上記の斡旋人3名体制で行われるが、2名体制(患者側弁護士1名、医療機関側1名)、1名体制(一般斡旋人1名)もあるそうです。いずれの体制で行うかは、当事者の要望に基づいて柔軟に運用しているようです。

斡旋人候補者

斡旋人候補者は、患者側15名、医療機関側15名、合計30名が名簿に登録されています。

実績

2007年9月(創設時)から2011年8月までの実績です。

応諾率:申立件数のうちの約6割
和解率:応諾した件数のうちの約6割
和解額:10万円単位~100万円単位の範囲が多い
手続期間・期日回数:平均手続期間 5~6ヶ月 平均期日回数 3~4回
和解条項:金銭支払条項のほか謝罪・再発防止・守秘義務に関する各条項が多い。

分析

ここからは私の分析になりますが、応諾率が約6割ということは、約4割はADR手続きを入り口で拒否していることになります。つまり、話し合いのテーブルについていないわけです。

そして、和解が成立するのは、応諾された約6割のうちのさらに約6割ということですから、申立てられた件数を母数にとると、和解率は約36%ということになります。
したがって、申立てられた全体の約36%は、このADRで紛争を解決していることになるのですが、約64%は未解決で終了していることになります。

訴訟をせずに解決していることや平均手続期間が約半年程度と短く、期日回数も3~4回程度ですむことを考慮すると、約36%の解決率は評価に値するとも言えそうです。
しかし、約64%がこのADRで紛争解決に至っていないことを考えると、この手続きによる解決に過度な期待を抱くことはできないでしょう。

また、和解額も少額です。10万円単位から100万円単位が多いということですが、仮に死亡事故や重度の後遺症が残るケースのような深刻な事件であれば、お見舞金程度の和解額に過ぎません。訴訟上の和解の場合、この程度の金額だと、実質的には医療機関側の勝訴和解と評されます。
したがって、基本的に高額な損害賠償が請求されるような案件では、ADRは不向きだと言えます。

そうすると、ADRに馴染むのは、比較的損害額が少額で、当事者の歩み寄りがしやすい事件に限られると思います。

さらに、斡旋人体制にも問題があると思います。

患者側、医療機関側からそれぞれ1名を斡旋人にして中立観を出そうという工夫は分かるのですが、足して2で割れば中立になるわけでもありません。しょせんは、患者側は患者側の立場で、医療機関側は医療機関側の立場で意見を述べると思いますので、紛争性の高いケースはやはり解決できないと思います。
その点も勘案して、いずれの立場でもない一般斡旋人を用意しているのだと思いますが、今度は専門家ではないために斡旋人としての信頼度が下がります。

このような事情も踏まえて、ご自分のケースがこのADRに馴染むかどうか十分検討したうえで活用することをお薦めします。

医療ADRを今後どのように活用するか

東京三弁護士会の医療ADRの現状が前述のとおりだとすると、患者が死亡した事案や重度の後遺障害が残った場合などでは解決に適さないと思います。このような深刻な事案では、損害賠償の額も高額になり、かつ患者側の被害者感情も痛切なものがありますので、申し立てたとしても医療機関がこれをまともに受け止めて紛争が解決に向かうとは思えません。

では、どのような場合に利用価値があるのかと言うと、私見ですが歯科医療や美容整形などで活用してみるのはよいのではないかと考えています。
もちろん、歯科医療や美容整形が深刻ではないと言っているのではなく、むしろ深刻な被害が発生しているような場合は、ADRは不向きでしょう。

しかし、これらの医療紛争の中には、仮に医療機関の過失が認められても、せいぜい100万円程度、ケースによっては数十万円程度の損害賠償しか請求できない事案がけっこうあります。私のところにも、歯科や美容整形の相談がたくさん寄せられますが、費用と時間との関係で私どもが受任できないものもけっこうあるんですね。

そういったものが、この医療ADRを通じて少しでも多く解決できれば、弁護士会も本望なのではないかと思います。

いずれにせよ、紛争解決機関としては大きな限界を有しており、今後の課題だと思われます。

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