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先駆的医療とは|分類・要件・医療過誤での問題について

先駆的医療とは|分類・要件・医療過誤での問題について

先駆的医療とは

「先駆的医療」を端的に表現すると、「医学上、いまだ治療法として確立していない、研究途上・発展途上の医療行為のこと」ということができます。

そもそも、今ある治療法や薬は、太古の昔から当然のようにあったわけではなく、先史時代から、当時の最先端の専門的研究者(あるいは市井の人)の研究によって蓄積されてきたものです。現代では、治療法や薬の開発は、国、大学、製薬会社等の研究プラットフォームの方針に基づいて、疾病の専門的研究者の理論構築、動物実験、臨床試験、追試、比較対象実験等により、疾病に対する有効性の検証と安全性の確認作業を経て行われています(※国の先駆的医療等に関する政策方針として http://www.mhlw.go.jp/seisaku/27.html などが公開されています。)。

先駆的医療とは、最も狭い意味では、上記「臨床試験、追試、比較対象実験」の過程で、未確立の治療法として行われるものといえます(純然たる先駆的医療)。

先駆的医療の分類

上記の純然たる先駆的医療の他、医療訴訟の場においては、「海外においては臨床試験、追試、比較対象実験が行われ、臨床現場ですでに実施されているが、日本国内においては症例データが少なく、有効性及び安全性の検証が十分に行われていない医療行為」も、先駆的医療に分類して差し支えないものと考えられます(広義の先駆的医療)。海外において普及している医療行為が、日本国内に普及しない理由としては、①いわゆる保険のきかない未承認薬・未承認医療機器を使用するものである、②人種により有効性・安全性が異なるため臨床試験等の段階にある、等があります。②は、国内に限っては狭義の先駆的医療に近くなります。

また、ある疾病に対して行われていた医療行為を、それまで対象とされていなかった疾病に対して行う場合も、上記広義の先駆的医療に含めてよいといえます。

先駆的医療実施の要件について

他の治療に対する優越性

―先駆的医療は何故実施されるか

そもそも、先駆的医療は医療水準として確立したものではないので、その結果(疾患を治癒させることができるのか、逆に増悪させるのか、全く効果がないのか、副作用はどうか等)について、ある程度予測はできたとしても、その予測は確実なものとはなり得ません。先駆的医療を受ける患者には、先行き不透明なリスクがあります。

それにも関わらず、あえて患者が先駆的医療を受ける動機・必要性としては、治療を必要とする疾患があることを前提に、(i)他に有効な治療がない、(ii)既存の治療よりもメリットがある(開腹手術が内視鏡に取って代わられたように身体への侵襲が低い等)、などが想定されます。先駆的医療が医学の進歩に有益であることは否定できないものの、医療は前提としてそれを受ける患者のためになされるものである以上、上記(i)、(ii)つまり他の治療に対する優越性が、先駆的医療実施の要件となると考えられます。

先駆的医療をすることの合理性

―人に対して実施可能なほどその先駆的医療に関する研究が成熟しているか

先駆的医療に上記の先行き不透明なリスクがある以上、人に対して先駆的医療を実施するにあたっては、そのリスクを軽減する措置が行われてきたか、という点も検討を要します。生理学的・病理学的根拠に基づいているか、基づいているとしても、動物実験等で十分な有効性の裏付け根拠が採られているか、等が問題になります。すなわち、先駆的医療をすることの合理性が、先駆的医療実施の要件となると考えられます。

また、上記合理性の審査は、先駆的医療を実際に行う医師限りの判断によって行われるべきではなく、組織としての医療機関における実質的な判断が行われるべきといえます。この点、平成15年7月30日厚生労働省告示第255号「臨床研究に関する倫理指針」では、「臨床研究」(同3頁)を行う場合における倫理委員会における審査等の手続が定められています(16頁)。上記「臨床研究」の定義にあてはまる場合、同指針の定める手続を行っているか否か、という点も、先駆的医療をすることの合理性判断にあたって重要になると考えられます(判断過程の合理性審査)。また、上記「臨床研究」の定義にあてはまらなくても、それに類する場合には、同指針に準じた手続により実施する医療行為の合理性を判断すべきといえ、その手続判断過程の合理性が、先駆的医療をすることの合理性判断にあたって重要になると考えられます。

実施機関の相当性

そもそも、先駆的医療を行う医療機関が、最先端の医療を行うだけの物的設備・人的設備がないのであれば、先駆的医療を行う資格がないことになります。そこで、実施機関の相当性が、先駆的医療実施の要件になると考えられます。

この実施機関の相当性判断にあたっては、(i)先駆的医療そのものを行うことについての相当性と、(ii)先駆的医療実施後発生し得るリスクに対処することについての相当性の双方について検討を要すると考えらえます。(ii)については、前提として、先駆的医療実施後通常発生し得るリスクに関する調査義務を履行したか否かが問題となります。また、先駆的医療を実施する医療機関そのものが、その後発生し得るリスクに対処できない場合、直ちに実施機関の相当性に欠けると判断されるべきではなく、通常想定し得るリスクが発生した後、リスクに応じた転医先を予め確保していたか、という転医義務類似の判断を行い、それに違反する場合に、実施機関の相当性が欠ける、という結論になることが穏当です。

患者に対する適応性

患者に対する適応がないものについて医療行為を行うことはできないことはいうまでもありません。患者に対する適応性が先駆的医療実施の要件になります。

患者の同意

先駆的医療は、一般的に行われている医療行為ではないことから、先駆的医療実施に関して患者の同意が要件となります。
この同意を得る前提として、患者に対し、先駆的医療の目的、内容、リスク、リターン等について具体的な説明を行ったかが論点となります(説明義務の履行)。

先駆的医療と医療水準論の関係について

患者側として、医療ミスを理由に医療機関側の責任を追及するには、医療行為を実施した医師等の「善良な管理者の注意」義務(民法644条)に違反したこと、「故意又は過失」(民法709条)を立証する必要があります(故意の場合を除いて注意義務違反の立証)。

一般的な医療ミスに対する責任追及をする医療過誤訴訟では、この注意義務違反の有無の判断に、いわゆる医療水準論が用いられています。しかし、この医療水準論の内容が確定した判例(最判H7.6.9民集49巻6号1499頁)は、新規の治療法の発見・理論構築、開発、普及のプロセスに触れた上で、

『新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており、当該医療機関においてその知見を有することを期待することが相当と認められる場合には、特段の事情が存しない限り、その知見は当該医療機関にとっての医療水準であるというべきである』

と述べていることから、この医療水準論は、有効性・安全性の確立した治療法に関するものといえます。したがって、有効性・安全性の確立する前の先駆的医療では、医療水準に満たないことを根拠として、医療機関側の過失を追及することはできません。

そこで、先駆的医療を受けた(又は受けることができなかった)患者側が、先駆的医療を受け又は受けなかったことにより損害を被ったと主張する場合、一般的な医療過誤訴訟とは異なる法的理論構成と医療調査が必要になります。

先駆的医療に関する法的諸問題について

先駆的医療を受けた患者が、医療機関側の責任追及を行うにあたって検討を要する法的問題としては、

① 先駆的医療実施の要件
② 先駆的医療を実施するに先立つ説明義務
③ 先駆的医療を実施した後の経過観察義務
④ 先駆的医療を実施した後の説明義務
⑤ 先駆的医療を実施した後、有害事象が発生した場合における当該有害事象に対する治療行為の適否

などが考えられます。

①は、当該患者は医学上先駆的医療の適応となるか、という問題と、法令及び「臨床研究に関する倫理指針」(平成15・7・30厚生労働省告示255号)その他の公的機関又は病院内部で定めるガイドライン等に準拠して先駆的医療を行ったか、という問題に分けられます。④は、いわゆる顛末報告義務であり、⑤は、有害事象に対する治療行為が一般的な医療行為であれば医療水準論の問題となります。

また、先駆的医療を受けることができなかった患者が、医療機関側の責任追及を行うにあたって検討を要する法的問題として、⑥先駆的医療(未確立療法)が存在することの説明義務などが考えられます。

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