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診療記録を開示させる証拠保全とはどのような制度か

診療記録を開示させる証拠保全とはどのような制度か

証拠保全とは

「証拠保全」とは、あらかじめ証拠調べをしておかなければ後日その証拠を使用することが困難となる場合に、裁判所を介しその証拠調べの結果を保全しておく手続をいいます。これによって、患者側にも診療記録が開示されることになります。

医療過誤事件では、医療ミスが窺われる事情があったとしても、直ちに医療機関や医師に対する責任追及をするということはありません。

責任追及の前提として、医師らに医療ミスに当たる行為(あるいは不作為)があるか、それがあるとしてそのミスが法的にも過失として評価できるかを調査しなければなりません。その判断資料として医療機関の保有する診療記録は不可欠です。医師側の過失の立証責任は患者側にありますし。

そして患者側がその診療記録を確保する手段として、「証拠保全」の制度が重要な役割を果たしています。

以前は医療機関側が診療記録の開示を拒むことが多かったことから、患者側としては診療記録を入手することすら容易ではありませんでした。

しかし2003年9月に、厚生労働省が「診療情報の提供等に関する指針」を公表し、その中で、「医療従事者等は、患者等が患者の診療記録の開示を求めた場合には、原則としてこれに応じなければならない」と規定されたことから、医療機関側が診療記録の任意の開示に応じることが増えました。

証拠保全の位置づけについて

調査において診療記録を入手するには、任意の方法と強制の方法があります。

任意の方法としては主に患者自身が医療機関にカルテ開示を請求する方法と弁護士照会による方法があります。証拠保全は、後者の強制的な方法に当たります。医療機関側から任意の開示が期待できる場合は、前者の方法によると費用の節約にもなります。

しかし、提供されたカルテ等が改ざんされている可能性があるというリスクは拭えません。そこで、改ざんの防止の観点からはやはり証拠保全が有効な手段となります。特に、小規模医療機関では開示が拒否されたり改ざんの危険が比較的高いために、証拠保全によるべきといわれています。

では、「医療過誤事件だから改ざんのおそれがある」といえば認められるのでしょうか。

実務上、申立書に「改ざんのおそれがある」と一般的・抽象的に記載されているにすぎない場合でも、申立てが認められるケースも多いようです(「別冊ジュリスト(No.169)」168頁)。
しかし裁判例では、保全を必要とする事由は具体的に主張しかつ疎明しなければならない、それは診療録等の改ざんについても同様であると判断したものがあります(広島地決昭61年11月21日)。

そして、その具体的な主張の例として、

① 医師に改ざんの前歴がある
② 医師が患者から説明を求められたのに正当な理由なくこれを拒絶した
③ 前後矛盾ないし虚偽の説明をした
④ その他ことさらに不誠実又は責任回避的な態度に終始したこと

などを挙げています。

このように、裁判所によっては具体的主張を求められる場合もある以上、申立の際には、これらの事情を記載した陳述書等を添付し、具体的に改ざんのおそれがあることを示しておいた方が良いでしょう。

証拠保全の有用性

民事訴訟法234条は、

「裁判所は、あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるときは、申立てにより、この章の規定に従い、証拠調べをすることができる。」

と規定しています。同条は証拠保全について規定したものであり、証拠保全は訴えを提起する前の段階でも可能なことから、以前は診療記録を入手するための手段として証拠保全が活用されていました。しかし、医療機関が診療記録の開示を受け入れている現在において、証拠保全の意味が薄れたかというと、必ずしもそうは言えません。

裁判例を見ると明らかなように、残念ながら医療機関によるカルテの改ざんや廃棄が問題となることは多いです。現代においても、医師によるカルテの改ざんや廃棄は少なからず行われていると言わざるを得ないでしょう。

医療機関側によって診療記録が任意に開示されたとしても、それが改ざんされた診療記録である可能性があることは、弁護士ならば常に頭の片隅に置いておく必要があります。

証拠保全の長所

証拠保全が任意の開示に優れている点は大きく言えば、①医療機関側の証拠の改ざん・廃棄を防止する点、②より多くの証拠の収集が見込める点、の2点にあります。

①医療機関側の証拠の改ざん・廃棄を防止する点について

医療機関側の任意の開示の場合、どうしても、開示を頼んでから実際に開示されるまでにタイムラグがあることは避けられません。早い医療機関の場合、数日で開示してくれることもありますが、一般的には数か月、場合によっては半年ほど開示までにかかる医療機関もあるようです。これだけの時間があれば、医療機関側が診療記録の改ざん・廃棄をする時間としては十分と言えるでしょう。

これに対し証拠保全の場合、医療機関側が証拠保全のことを初めて知るのは、裁判所から証拠保全決定書が送達された時であり、一般的に証拠保全決定書が送達された1時間ほど後には証拠保全の手続きが開始されることから、医療機関側が診療記録を改ざん・廃棄をするような時間的余裕は極めて乏しいです。患者側としても証拠保全の長所を活かすため、証拠保全決定書が送達されるまでは医療機関側に手続きを進めていることを悟られないよう、秘密裏に行動する必要があります。

②より多くの証拠の収集が見込める点について

一般の方が、医療機関に診療記録の開示を頼む場合、一体どういった種類の診療記録の開示を指定するでしょうか。せいぜい、カルテや診療報酬明細書といった診療記録しか指定しないのではないでしょうか。当然、医療機関側が患者側が指定しなかった診療記録を開示するようなことはありません。

これに対し証拠保全の場合は、実際に患者側の人間が医療機関に出向くことから、証拠保全申立書に保全書類目録として記載された診療記録全てについて証拠保全の手続きを行うことが可能です。

下は、私の事務所で実際に証拠保全を申し立てた際に使用された保全書類目録の記載ですが、そこには多くの診療記録が挙げられているにも関わらず、7のような概括的な記載もなされているのが一つの特徴です。このような概括的な記載も一般的に許容されており、保全の必要性が認められる限り、多くの診療記録が証拠保全の対象となります。

1 診療録、医師指示簿(表)
2 諸検査結果記録、画像検査記録
3 看護記録、温度板
4 診断書(写し)、診療情報提供書(紹介状)(写し)
5 医療事故報告書、損害賠償事故報告書(写し)
6 診療報酬請求書(控え)
7 その他、○○○○の診療に関して作成された一切の文書及び物(電磁的記録を含む)

証拠保全の必要性について

診療記録に対し証拠保全を行うためには、「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情」があることが要求されています。このことは、証拠保全を主張する側が、「破棄、改ざん、偽造などのおそれ」を疎明する必要があることを意味します。

この点について、広島地裁昭和61年11月21日決定で診療録に対する証拠保全の可否が争われており、とても参考になります。この裁判では、「抽象的な改ざんのおそれでは足りず、・・・・・具体的な改ざんのおそれを一応推認させるに足る事実を疎明することを要するものというべきである。」と述べられており、証拠保全を求める側にとって厳しい判断がなされたようにも思えます。しかしながら、現在の裁判例などを概観すると、診療記録に対する証拠保全は比較的緩やかに認められる傾向にあり、一般的に医療事故訴訟において証拠保全が認められる可能性は高いと言えるでしょう。

証拠保全当日

証拠保全の当日は、裁判所の主導の下弁護士らが医療機関に出向き、カメラマンが記録を撮影する方法等により実施されます。

この際、ただ医療機関から提供された資料を撮影すればよいのではなく、不足の記録があればその提出を求め、また、事案に応じ必要かつ重要な記録は何か判断したり、不明点等につき医療機関側の説明を調書に残してもらうといったことも必要になります。
そのため、患者側としては、現場でこのような判断が適切にできるだけの知識や経験を備えた弁護士に依頼することも、重要なことといえます。

証拠保全については信頼出来る弁護士にご相談ください

大学病院等の診療記録の開示制度が整備された所ならばともかく、開業医などでは診療記録の開示に消極的な所が少なくないばかりか、残念なことに診療記録の改ざん等を行うような所がないとも言い切れません。仮に医療機関側が診療記録を開示したとしても、それがカルテ等のみにとどまる場合、医療事故訴訟を追行する上での証拠としては不十分と言わざるを得ません。

また、医療機関が任意に診療記録を開示した場合、証拠保全の必要性が減少してしまい、裁判所が証拠保全を認めない事態に陥ることも十分考えられます。言うまでもありませんが、診療記録さえ満足に入手出来ないようでは、訴訟において良い結果を残すことは難しいです。

法的手続きに踏み出すことに躊躇する気持ちは分からなくはないですが、もし不幸にも医療事故に遭遇してしまった場合、出来るだけ早く信頼出来る弁護士に相談することを心掛けて下さい。

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