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医療過誤において私的鑑定意見を依頼する際の注意点と信用性が問題となった判例(最判平成11年3月23日)

医療過誤において私的鑑定意見を依頼する際の注意点と信用性が問題となった判例(最判平成11年3月23日)

私的鑑定意見書とは?

裁判所から選任された鑑定人ではなく、当事者が学識経験のある第三者に依頼し、経験則についての専門的知識あるいは経験則を用いて得た事実判断の報告を「私的鑑定」といいます。協力を依頼した医師に意見を記載してもらった書面を証拠として提出する場合のその意見書を、「私的鑑定意見書」といいます。

鑑定は、裁判所に選任された鑑定人の報告によっても得られますが、立証責任を負う患者側としては、過失等を裏付ける専門家の意見を積極的に提出する必要があります。

私的鑑定書の信用性

弁護士も、医学成書や医学論文などを読むことにより、ある程度の医学的知見を身につけることは可能です。しかし、弁護士が取り扱うのは個別具体的な事案であり、一般論としての医学的知見を多く身につけたとしても、その知識を応用して依頼者の言い分に沿った形で適切に法的構成をすることは非常に困難な作業となります。

そこで、医師に依頼して、具体的な事案に医学的知見を適用した場合どのような点に問題があるのか、訴訟になった場合どのような見通しが立つのかということを意見書として書いてもらうことになります。

ところが、私的鑑定意見書については、その信用性をめぐって議論があります。

私的鑑定書については、裁判所による選任手続を経て選任された鑑定人によって作成されたものではないこと以外、鑑定人により作成された意見書と変わることはなく、その信用性を評価する考え方があり、最近は裁判所において私的鑑定意見書に対する証拠価値が高く評価される動きも見られます。

しかし、他方で、私的鑑定意見書はあくまで一方当事者に依頼されて作成されるものである以上、いかに医師が公正に意見書を書こうとしても、頼まれた側の当事者に迎合的な内容になるおそれがあり、医学の専門家である医師が作成したということのみで私的鑑定意見書の証拠価値を高く評価することは危険であるといわざるをえませんし、結論のみしか記載されていないものであれば、裁判所の心証形成に役立つものとはいえないでしょう。

ですので、私的鑑定意見書に高い証拠価値を持たせるためには、できるだけ作成した医師に名前を出してもらうこと、当該事案にかかる医療分野の専門医や当該分野に優れた診療実績を持つ医師の作成してもらうこと、私的鑑定意見書の記載内容と他の証拠との整合性をもたせること、結論にいたる根拠が合理的に説明されていることなどに注意をすることが重要である。

しかし、意見書の内容は非常に専門的な内容になる場合もありますので、意見書の結論にいたる根拠が合理的なものであることを裁判所にしっかりと理解してもらうことが必要となります。そのためには、弁護士自身が意見書の内容をしっかりと理解・把握しておく必要がありますし、特に内容が高度になればなるほど、自分がしっかりと理解できていなければ、自分が望むような心証を裁判所に形成させるのは困難です。

私的鑑定意見書の作成を依頼する場合の注意点

意見書の証拠価値を担保するため、意見の根拠となる文献があるならば、必ず引用したほうがよいでしょう。また、意見書の中に意見書を書いた医師の経歴や実績を記載するなど鑑定書と同様の形式を整えることも有効ではないかと思われます。

私的鑑定意見書を書いてくれる医師は、医学の専門家でありますが法律の専門家ではありません。
ですので、私的鑑定意見書の作成を依頼する場合には、法律概念としての「過失」や「因果関係」などの意義をよく理解してもらう必要があります。

なんとか協力医を得、有利な鑑定意見が得られたとしても、「生じた結果は予測できた」「医師は○○○の治療をすべきであった」「○○○の治療をしていれば結果は避けられた」などという結果のみが記載された私的鑑定意見書では足りません。
専門家の鑑定意見も、それがどの程度信用できるのか、その意見を判断の資料として採用するか否か、といった判断は裁判所の自由な心証に委ねられます。

では、どのような意見を提出しなければならないのでしょうか。
医師といってもその専門分野は様々であり、裁判所の評価を得るためには、問題となっている事案を専門とする医師であることが必要です。そして、意見書についても、その形式や内容が信用するに足りるものでなければなりません。
この点について参考になる判例をご紹介します。

顔面けいれんの根治術である脳神経減圧手術を受けた後間もなく患者が脳内血腫を生じ死亡した事案(最判平成11年3月23日)

顔面けいれんの根治術である脳神経減圧手術を受けた後間もなく患者が脳内血腫を生じ死亡した事案で、最高裁(最判平成11・3・23)は、原審が依拠した鑑定について

鑑定人Aの鑑定は、診療録中の記載内容等からうかがわれる事実に符合していない上、鑑定事項に比べ鑑定書はわずか一頁に結論のみ記載したもので、その内容は極めて乏しいものであって、本件手術記録、(患者の)CTスキャン、その結果に対する(医師らによる)各記録、本件剖検報告書等の記載内容等の客観的資料を評価検討した過程が何ら記されておらず、その体裁からは、これら客観的資料を精査した上での鑑定かどうか疑いがもたれないわけではない

として、Aの鑑定を過大評価できず、これに依拠した原審の判断には違法があるとしました。

また、ポリープ摘出手術を受けた患者が術後に出血性ショックにより死亡し、担当医が追加輸血等を行わなかったことの適否が問題となった事案で、最高裁(最判平成18・11・14)は、
原審が依拠した医師側提出の私的鑑定意見書Bについて、

・当時の患者の症状に照らすと、患者の「全身状態が良好に保たれていた」とする意見を採用することは出来ない

・輸血に合併症の危険があることが輸血を追加しないことを正当化する根拠としているが、本件において患者が輸血の追加を必要とする状態にあったとすれば、その一般論は過失の結論を左右しないなどとし、他方、患者側が提出した私的鑑定意見書Cについて

・その意見が、当時の患者の赤血球数等の数値の変化や看護記録に記載された当時の症状を基に、輸血の必要があったと判断していることを指摘し、合理性を否定できない

とし、それにもかかわらず双方の意見書の内容を比較検討する手続も執ることなく意見書Bに依拠した原審の判断は採証法則に違反すると述べています。

これらの判例によると、鑑定意見は、結果のみならずその判断にいたる過程も示されていること、その判断が単なる一般論ではなくその事案の具体的事実に基づいたものであること、判断の前提とした診療経過等に関する事実が診療記録などの客観的資料と一致していること、鑑定意見に至った判断に合理性があることなどが必要であるといえます。

患者側としては、まず協力医を見つけることが必要でありますが、その後も、鑑定意見の価値を裁判所に認めてもらうために、上記のような証拠としての評価を得られる意見書を得られるよう努力をしなければなりません。

私的鑑定書意見書の作成に協力してくれる医師の見つけ方

患者側としては意見を提供してくれる医師を見つけなければなりませんが、その協力を得ることは容易ではありません。ましてや、名前を出して裁判に提出する意見書の作成に協力をしてもらうことは困難を伴います。
協力医を得るルートとしては、

① 第三者から紹介を受ける
② 研究会などで知り合った医師に依頼する
③ 当該分野の文献・著書が多い医師に直接当たる
④ 当該事案の前医・後医に依頼する

などが挙げられています(加藤良夫・増田聖子「患者側弁護士のための実践医療過誤訴訟」日本評論社(2004年)102~103頁)。

紹介の一場合として、依頼した弁護士が医療事故情報センターや医療問題弁護団に所属している場合は、それらの機関を通して協力医の紹介を受けることもできます。

私的鑑定意見書の作成時期と提出時期

まず、医療過誤訴訟を提訴する以前の段階で訴訟の見通しを立てるために私的鑑定意見書を作成してもらう場合は、作成を依頼された医師は、自分が作成した私的鑑定意見書により依頼者が敗訴することはないので依頼者側に不利な内容も書きやすいことから信用性は相当程度担保されるでしょう。

しかし、提訴後においては、依頼を受けた医師は、自らが作成した私的鑑定意見書により依頼者が敗訴してしまう可能性があることにプレッシャーを感じ、依頼者側に不利なことは書きにくくなるので一般論として証拠評価は低くならざるをえません。

また、弁護士としても、依頼者に不利な内容の私的鑑定意見書をそのまま裁判所に提出すると、弁護士としての善管注意義務違反になるおそれがあります。

私的鑑定意見書の提出時期に関しては、医療過誤訴訟も迅速化が望まれる現代においては、争点の明確化と立証活動の方向性が早期に確定されることが求められるので、私的鑑定意見書もできるだけ早期に提出することが望ましいといえます。

私的鑑定意見書の問題点

訴訟当事者の一方が私的鑑定意見書を提出すると、反論のため相手方も自らの主張を補強するための根拠として相手方に有利な内容の私的鑑定意見書を提出してくる事態がまま見受けられます。

医師も診療等の本業を行いながら私的鑑定意見書を作成することから私的鑑定意見書の作成には時間がかかるので、せっかく一方当事者が早期に私的鑑定意見書を提出し争点や立証活動の方向性が明確化したにもかかわらず、いわゆる意見書合戦のような状態になった場合、訴訟遅延を招く恐れがあることは否定できません。

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