医療過誤紛争の解決方法について | 医療事故 医療過誤 / 弁護士法人ALG&Associates

医療過誤紛争の解決方法について

医療過誤紛争の解決方法について

弁護士・医学博士 金﨑 浩之

法律相談

まず、弁護士と相談希望者との間で法律相談が実施されます。相談時間は案件にもよりますが、最低でも30分はかかると考えてください。医療過誤事件の場合は、通常は1時間以上かかります。2時間に及ぶことも希ではありません。したがって、十分な時間を確保して法律相談してください。具体的には、案件によっても異なりますので、相談に赴く法律事務所に直接問い合わせてご確認ください。相談の結果、医療過誤に当たらない可能性が高いか、仮に医療過誤である可能性があっても、その立証が不可能ないし著しく困難と判断される場合には、基本的に不受任を推奨しています。不受任となった場合には、法律相談で終了となります。

医療調査

法律相談の結果、医療過誤である可能性があると判断される場合であっても、直ちに示談交渉等の話し合いや訴訟を開始できるわけはありません。医療調査として受任し、入手した診療記録を分析・精査したうえで、当該事案の精査に協力してくれる医師(協力医といいます)がいる場合には、その協力医にも診療記録等を精査してもらい、協力医の助言を得たうえで、医療側に責任追及するべきか否かを弁護士が提案します。協力医の助言を参考にした結果、医療側に対する責任追及が困難と判断される場合には、責任追及を断念するという提案を行う場合もあります。協力医についての詳細は、本サイトの「協力医とは」を参考にしてください。医療調査を受任した時点において、診療記録が入手されていない場合には、受任した弁護士が診療記録を入手するか、依頼者自身に直接入手していただきます。診療記録の開示を求めたにもかかわらず、病院側がその開示を拒否し、又は改ざんの可能性があるため任意の開示を求めることが相当ではないと思料される場合には、弁護士による証拠保全の申立てを依頼者に提案します。もっとも、近時は、ほとんどの医療機関が任意のカルテ等開示に応じる傾向にあり、また電子カルテの普及により改ざんのリスクも相当小さくなっていることもあって、以前と比べれば、証拠保全が敢行されることは少なくなりました。医療調査に要する時間は、事案の内容や診療記録の量、協力医の有無等などの様々な事情により流動的ですが、概ね3ヶ月から6ヶ月程度と考えてください。但し、医療調査だけで1年以上を要する場合もあります(複数の協力医から助言を得る場合など)。詳しくは、法律相談で弁護士に確認してください。

解決方法

法律相談の結果、医療過誤に該当する可能性があり、医師・医療機関の法的責任を立証できる見込みがあると判断される場合には、基本的に受任する方向性となります。但し、解決方法には、示談交渉・民事調停・ADR・説明会・訴訟の5種類があり、依頼者の希望・事案の性質・請求額の多寡などの事情に応じて、当該事案に適した解決方法を弁護士が提案します。そして、依頼者と弁護士が協議したうえで、受任する解決方法を決定します。なお、上記5種類の方法のうち、示談交渉・民事調停・ADRの3つは、当事者(患者側と医療側)の話し合いを通じて解決を模索するという点で共通します。このうち、民事調停は第三者機関として裁判所が関与し、ADRは裁判所以外の第三者が関与する手続きであるのに対し、示談交渉は、これらの第三者機関を関与させずに当事者だけで話し合うという点で異なります(もちろん、いずれの方法によっても、代理人として弁護士を関与させることは可能です)。但し、これらの解決方法は、いずれも当事者同士の話し合いを基礎としていますので、合意が成立しなければ解決にはならないという限界があります。 他方、訴訟は、判決により解決が図られる点で、示談等の話し合いをベースにした解決方法とは大きく異なります。原告(患者側)の請求が認められれば認容判決(一部認容を含む)が下され、請求が認められなければ棄却判決が下されます。判決に不服があれば、敗訴した側は控訴することができます。そして、控訴審の判決に不服がある敗訴者は、最高裁に上告できる場合があります。上告できる場合があるというのは、最高裁は法律審であるため、上告の要件が厳しく限定されており、要件を充たさなければ上告できないからです。上告理由を充たさない場合が多いので、基本的に訴訟制度を通じて争えるのは、控訴審までと考えてください。 ちなみに、訴訟による場合には、判決によって解決が図られると述べましたが、訴訟中に話し合いがまったくなされないわけではありません。訴訟中に話し合いがまとまって合意に至れば、訴訟上の和解が成立します。この場合には、判決はくだされず、和解で事件は終結します。示談等の話し合いとの根本的な違いは、訴訟上の和解が成立しなかった場合であっても、判決により解決を図ることができるという点です。

説明会

上記解決方法とは毛色の違うものとして、説明会があります。簡単に言えば、当該医療事故が発生した原因について、病院から詳細な説明を受けるために、説明会というものが開催されます。この説明会は、解決方法というよりは、それを模索するための情報収集の一環としてなされることが多く、これ自体が必ずしも解決を図ることを目的としているわけではありません。説明会の結果、医療過誤の疑いが強まれば、示談交渉等の話し合いや訴訟などの手続きに移行する場合があります。また、説明会における医療側の真摯な説明により、患者側がこれに納得することができれば終局的な解決に至ることもあるので、その意味では一定の紛争解決機能があります。この説明会は、必ずしも弁護士を代理人につける必要はなく、当事者である患者側の関係者が直接医療側に申し入れ、患者側代理人弁護士が不在のまま実施されることもあります。もっとも、すでに診療記録を入手済みである場合には、弁護士に関与させたほうが、適切な質疑応答が図られることを期待できるので、弁護士を関与させるメリットがあります。他方で、説明会に弁護士が出席するということになると、医療側の警戒心を強め、場合によっては、説明会自体が中止になることもあります。なお、説明会は、医療側に対する責任追及の場と化すことも珍しくなく、そのような展開になることを嫌って、説明会自体を行わないことを基本方針としている医療機関もあります。したがって、必ず実施されるものではないことに注意してください。

解決方法選択の目安

個々の弁護士の考え方や依頼者の希望等にもよりますので、あくまでも一般論として解説します。 まず、請求額が数千万円以上に及ぶような高額請求事件の場合は、訴訟以外の解決方法は向きません。確かに、私たちの経験でも過去に示談交渉等の話し合いや調停手続きなどで高額の和解が成立したことはありますが、あくまでも例外です。マスコミでも報道され、医療側の過失が明らかな患者取り違え事件でも、交渉が決裂し、結局訴訟になりました。高額な場合、金額面で折り合わなくなるのです。これに対し、歯科や美容外科の分野の医療ミスの場合は、比較的少額(数十万円から数百万円程度)なものが多く、示談交渉等の話し合いでも解決を見込める場合があります。 次に、弁護士が関与する前に、患者側と医療側の当事者間で何らかの話し合いが行われ、その際に、医療側が謝罪の意を表明することがあるようです。このような場合に、医療側が謝罪しているのだから争ってくるはずはなく、訴訟をしなくても解決できるのではないか、と考える相談者が時折みられます。しかしながら、医療側の関係者が何らかの形で謝罪の意を表明したとしても、損害賠償を求めるという段階になると、病院側にも弁護士が就き、徹底的に争われるのが通常です。また、医療側が謝罪の意を表明していたという事実は、必ずしも訴訟になった場合に患者側に有利に働くわけでもありません。したがって、解決方法を選択するに際しては、医療側が謝罪の意を表明した事実があるか否かを重視するのはあまり得策だとは言えません。もっとも、マスコミの記者会見を通じて、医療側の責任者が謝罪の意を公の場で表明したような場合には、示談交渉等の話し合いでも解決できる見込みがあります。しかしながら、そのような場合であっても、過度の期待は禁物です。数ヶ月の交渉過程で金額が折り合わないようであれば、速やかに訴訟に切り替えるという決断力も必要です。 ちなみに、話し合いによる解決を見込める場合であっても、その解決方法には、大きく分けて示談交渉、民事調停、ADRの3種類があります(説明会は、解決を直接目的とするものではありませんので、ここでは省略します)。この3種類の選択に関する一応の指針を解説すると、一般論としては、示談交渉よりも、第三者を関与させる民事調停やADRのほうが優れていると思います。第三者が関与していないと、紛争当事者同士の言い分が激しく対立し、話し合いが平行線となることも少なくないからです。したがって、医療過誤紛争において、全く第三者を関与させずに解決に至る(しかも、患者側の言い分に沿った形で)のは、かなり限定されると考えた方がよいと思います。

示談交渉の特徴

示談交渉は、第三者を関与させない当事者同士の話し合いです。代理人弁護士は、患者側又は医療側のいずれか一方に就くので第三者ではありません。したがって、中立的な第三者が関与していない限り、弁護士関与の有無を問わず、示談交渉に含まれます。 弁護士に示談交渉を依頼する際には、まずこの示談交渉の基本的な原理原則を理解してください。その原理原則とは、そもそも示談交渉は賠償請求を求められている医療側が有利なポジションから始まるということです。例えば、3000万円相当の被害を被った患者側が示談交渉で医療側に損害賠償を請求した場合を考えてみましょう。患者側にとって、この場合の利益の最大化は、3000万円全額の賠償を受けられることです。しかし、示談交渉である以上、3000万円の支払について、医療側を説得しなければなりません。説得できないと合意に至らないからです。では、請求額を2000万円に減額したらどうか。この場合も同じです。2000万円支払うことについて、医療側を説得する必要があります。1000万円、500万円…と減額していっても同様です。他方で、医療側にとっての利益の最大化は、賠償額0円です。しかも、医療側にとって、この0円という最大利益を現実のものにするのは容易です。交渉が決裂すれば、結果的に0円となるからです。要するに、賠償額を0円とするのに、医療側が患者側を説得する必要はないのです。 もっとも、0円だと患者側は到底納得できないでしょうから、医療側は訴訟リスクを負うことになります。したがって、訴訟を避けたいという強い動機が医療側にあれば、医療側も交渉決裂を嫌がりますので真摯に対応してくる可能性が高まります。しかしながら、一般論として言えば、医療側は、この訴訟リスクを脅威とは考えておりません。そもそも、医療訴訟の患者側勝訴率は高くはなく、仮に医療側に何らかの責任が肯定されたとしても、訴訟上の和解で患者側が相当の減額に応じなければならないのが通常であるため、訴訟を起こされたからといって、医療側の経済的損害が拡大するわけではないからです。むしろ、医療側が懸念するのはレピュテーション・リスクのほうでしょう。医療過誤を理由に訴訟を起こされたことがマスコミ報道を通じて世間に知れ渡り、病院の評判が落ちることは、大きなリスクと考えているはずです。しかしながら、医療過誤訴訟がマスコミを通じて大きく取り上げられることは多くはありません。実際に、医療訴訟の法廷で、マスコミ関係者が傍聴席を占めるということは、ほとんどありません。したがって、「訴訟を起こされる=病院の評判が下がる」を意味するわけではなく、このレピュテーション・リスクも病院側にとって必ずしも大きなものではありません。 しかし、だからといって、医療過誤事件の内容をマスコミにリークするのはお薦めできません。そのようなことをすれば、医療側としては、名誉の回復のため、自らの身の潔白を証明する以外に方法がなくなり、医療側に徹底抗戦の途を選択させてしまうからです。また、訴訟で患者側が敗訴した場合に、返す刀で今度は、医療側から名誉毀損等で患者側が訴えられるリスクを負うことになります。報道機関のほうから積極的に取材を求めてきたというのであればともかく、患者側のほうからマスコミにリークすることには、相当慎重でなければなりません。 ところで、一般的にいって、弁護士が示談交渉を選択する場合、解決時間を短縮できるという期待がベースにあります。一般的に訴訟の場合は、紛争解決までの時間は長期化します。東京地裁医療集中部の場合、平均審理期間は2年前後のようですが、この中には訴訟上の和解で終結した事案も多く含まれます。判決になる場合、我々の経験では、医療訴訟の場合、3年以上はかかるという印象です。

民事調停の特徴

民事調停も話し合いに中立的な第三者である裁判所が関与する点で、当事者同士の話し合いに過ぎない示談交渉よりも紛争解決に至る可能性は高いと言えるかもしれません。特に、東京や大阪などの大都市圏内の裁判所には、医師が専門委員として調停手続きに関与できる場合も多く、話し合いの過程で中立的な第三者から専門的な知見を得られるので、紛争解決にプラスに働くことも少なくないと思われます。 しかしながら、裁判所が関与しているとはいえ、話し合いによる解決であるという本質は示談交渉と同じなので、合意に至らなければ解決には至りません。また、地方都市の裁判所では、医師資格を有する専門委員を確保できていないケースも多く、その場合には、中立的な第三者から専門的知見を得ることはほぼ絶望的です。民事調停手続きに関与する調停委員は、基本的に医学の素人と考えてください。 それでも、民事調停にはいくつかのメリットがあります。第1に、比較的少額であれば、話し合いがまとまり、合意に達する可能性があります。第2に、法的に白黒付ける手続きではないので、柔軟に話し合いができます。第3に、この手続きでは交渉が決裂しても判決は出ませんので、相手方である医療側の警戒心もそれほど高くはなく、医療側が前向きに検討してくれる可能性があります。 もっとも、デメリットも少なくありません。第1に、高額な賠償請求を前提とする場合、合意がまとまることは極めて希で、大概は不調(交渉決裂)で終わります。第2に、判決が予定されていない手続きなので、仮に合意に達する場合であっても、患者側は大きな譲歩を強いられることになります。第3に、話し合いであるにもかかわらず、裁判所を関与させているために、手続きは迅速ではありません。基本的に、調停の期日は、どんなに迅速であっても月1回のペースでしか入らず、お盆や年末年始の前後は期日が入らず、次回期日まで2ヶ月以上の間隔があくこともあります。実際に、民事調停による話し合いを約3年6ヶ月行ったにもかかわらず不調(解決に至らず)に終わったという報告もあります。3年6ヶ月も話し合い、交渉決裂で終わるのであれば、訴訟のほうが遙かによいと思います。訴訟でれば、たとえ全面敗訴でも結論が出ますから。第4に、医療側が基本的に責任を争っている場合、調停手続きであるにもかかわらず、申立人(患者側)と相手方(医療側)との間で激しい法律論争・医学論争が展開されることも珍しくありません。こうなると、何のために民事調停を選択したのか分からなくなります。 したがって、医療紛争の解決手段として民事調停を選択できるのは、請求額が比較的少額にとどまる場合であるとか、医療側が当初より過失を認めている場合などのケースに限られると思います。

ADRの特徴

ADRは、裁判所以外の第三者が手続きに関与するものですが、当事者の合意による紛争解決であるという点では、本質的に民事調停と同じです。 しかしながら、ADRには、民事調停にはないメリットもあります。その最大のメリットは、専門家が関与できるように制度設計されている点です。前述したように、民事調停の場合、医師である専門委員の関与があるのは大都市圏に限られ、地方都市の裁判所で行われている民事調停委員は、そのほとんどが医療紛争に精通していません(経験が皆無という場合もあります)。他方で、ADRの場合は、そもそも専門家の関与が想定されている制度・仕組みなので、話し合いの中で、踏み込んだ議論もでき、当事者の納得感も高まると思われます。しかしながら、“中立性”という観点からは、疑問が残ります。今日、医療ADRで有名なものには、医師会主導のものと弁護士会主導のものがありますが、中立性の確保という点で大きな課題を抱えています。 まず、医師会主導のADRが中立的に見えないのは言うまでもありません。現実に、医師会主導のADRで、医療側が高額の賠償を支払うことに合意したというケースの報告を聴いたことがありません。察するに、医師会主導のADRの目的は、医療紛争が訴訟に持ち込まれないようにすることだと思われますので、医療側に不利益となる知見や情報を患者側に与えることはないと思われます。もし、そのような情報を与えてしまうと、話し合いがまとまらなかった場合、患者側が訴訟を起こす誘引となりうるからです。したがって、患者側が本当に知りたい真相や核心には迫れないと思われます。 次に、弁護士会主導のADRにも一定の限界があります。弁護士会主導のADRでは、医療紛争の経験を有する弁護士が関与することで、専門家の関与が担保されています。医師の関与ではありませんが、医療紛争の経験がない調停委員が関与する民事調停手続きよりも問題の核心に迫れるかもしれません。しかしながら、中立性という観点からすると、やはり限界があります。というのも、医療紛争を扱っている弁護士の多くが患者側と医療側に分かれており、真に中立的な立場から思考する弁護士がほとんどいないからです。例えば、東京三会(東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会)主導の医療ADRの場合、患者側の弁護士と医療側の弁護士が同数手続きに関与するように制度設計されているようですが、足して2で割ったからといって、中立的な思考になるわけではありません。したがって、この手続きを利用したからといって、必ずしも中立的で有益な助言が得られるとは限りません。 加えて、医師会主導であれ弁護士会主導であれ、判決による終局的な紛争解決の保証がない点では、民事調停と同様であり、合意に至らなければ、結局、訴訟しか手段がありません。話し合いでまとまる見込みが高い事案でない場合には、最初から訴訟手続きを選択したほうが、解決までに要する時間も最終的には短縮できます。 このような実情を踏まえると、ADRによる紛争解決が期待できるのは、請求額が比較的少額にとどまる場合であるか、医療側が過失を認めており責任の有無を争わないようなケースに限られると思います。

訴訟の特徴

訴訟の最大の特徴は、示談交渉や民事調停、ADRなどと異なり、裁判所から判決をもらって白黒つけられることです。 もっとも、医療訴訟の場合は、他の一般の民事訴訟と比べて、和解(訴訟上の和解)で終結するものが多いという特徴があります。例えば、東京地裁医療集中部の例を紹介すると、和解で終結した事件数は、平成29年度86件/128件(67%)、平成28年度92件/137件(67%)、平成27年度77件/141件(55%)、平成26年度61件/134件(46%)、平成25年度88件/175件(50%)というのが過去5年間の傾向です。平成25年から平成27年までは約50%前後で推移していましたが、平成28年、29年は続けて67%という高い和解率を維持しており、70%に近づく勢いです。今後、この70%弱の和解率が維持されるのか、それとも50%前後まで戻るのか不透明ですが、和解による解決が多いというのが医療訴訟の特色であることは、医療事件に携わる弁護士の一般的な認識です。そうだとすると、訴訟とはいっても、現実には当事者同士の話し合い(合意)で解決していることになります。 しかしながら、訴訟の場合には、話し合いが決裂し和解が成立しなければ、判決になるという意味で、終局的な解決は担保されています。そのため、判決が予定されていない示談交渉・民事調停・ADRとは大きく異なり、当事者も判決による敗訴リスクを恐れて、話し合いに前向きになるという傾向があります。したがって、紛争の解決機能という点では、最も優れた手段であることは間違いありません。 ところで、訴訟のデメリットとしてよく指摘されるのは、示談交渉などと違って、時間がかかることです。特に、医療訴訟の場合は、専門性が高い複雑訴訟であるため、一般の事件と比べてもさらに長期化する傾向にあると言われてきました。しかし、民事訴訟法の改正で集中審理が促進された結果、医療訴訟の審理期間も平均的には2年前後と言われています。東京地裁医療集中部の最近の傾向を紹介すると、その審理期間の平均は、平成29年度22.7ヶ月、平成28年度19.4ヶ月、平成27年度16.4ヶ月、平成26年度17.4ヶ月、平成25年度19.6ヶ月となっており、2年以内で終了しています。医療集中部が設置されていない地方都市の裁判所では、これよりも長くなる傾向があるかもしれませんが、それでも3年を超えるものは少ないと思われます。この時間軸を医療訴訟のデメリットと捉えるべきか否かですが、示談交渉等で満足できる解決に至らなければ、諦めて泣き寝入りするか、さもなければ訴訟に踏み切るしかないわけですから、交渉で解決できる見込みが高いという例外的なケースを除き、初めから訴訟を選択したほうがトータルで解決に至る時間は短縮できるとも言えます。したがって、訴訟に要する時間は、この解決方法を選択するうえで決定的なデメリットになるということはないと考えられます。 もっとも、訴訟を選択する場合、患者側が勝訴又は勝訴的和解を勝ち取る上で、数多くのハードルがあります。 第1に、立証責任の問題です。医療訴訟において、医療側の賠償責任が肯定されるためには、患者側が過失・損害の発生・因果関係を立証しなければなりません。分かりやすく言うと、「医療過誤である」ことを患者側が立証しなければならないのであって、「医療過誤でない」ことを医療側が立証する必要はないということになります。言い換えると、医学の専門家ではない者が立証責任を負い、医学の専門家は立証責任を負っていないということです。高度な医学論争が待ち構えている医療訴訟において、これは間違いなく患者側にとって最も大きなハードルです。 第2に、司法が医学の素人であるという構造的な問題です。要するに、最終的な判断を下す裁判官が非専門家であるということです。東京・大阪などの大都市圏では医療集中部が設置されておりますが、医療専門部が設置されている裁判所は現在のところありません。医療集中部というのは、あくまでもその部署に医療事件が集中しているというだけであって、医療事件だけを取り扱っているわけではありません。加えて、人事異動で裁判官は定期的に入れ替わります。そして、現在の裁判所の人事では、医療事件の未経験な裁判官が医療集中部に配属になり、医療事件に慣れた頃には、人事異動で他の地方裁判所の通常部に転勤になるというパターンが一般的です。したがって、医療事件を得意とする裁判官が育ちにくいという土壌があるのです。このような事情から、必ずしも医学に精通しているわけではない裁判官を患者側が説得しなければならないことになり、これも医療訴訟の大きなハードルとなっています。 第3に、医療訴訟は医師を敵に回すにもかかわらず、医師を味方につけなければならないというジレンマです。これは、司法が医学の素人であることから派生した問題とも言えますが、患者側に有利な専門的意見を述べる意見書や鑑定人の意見がなければ、基本的に裁判所が患者側の請求を認めることはないということになります。昔と比べれば、患者側のために有利な内容の意見書を作成してくれる協力医も増えましたが、全ての訴訟案件で意見書を提出できるわけではないというのが現状です。また、裁判所が選任した鑑定人が医療側をかばって不適切な意見を述べることも少なくありません。このような背景から、医師が不適切な意見を述べたから、又は裁判官が問題の本質を理解できなかったから、という理由で、本来であれば勝訴の見込みが高かったはずのケースなのに敗訴するという事態が生じます。 医療訴訟では、これらのハードルを乗り越えて、勝訴判決もしくは勝訴的和解を勝ち取っていかなければならないということになります。そのため、医療訴訟の患者側の代理人となる弁護士には、医療過誤事件の豊富な経験と医学的知見の獲得が必要となるわけで、弁護士の選択が問題解決のかなりの部分を占めることになります。

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