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医療過誤事件における損害賠償請求の流れ(訴訟準備・訴訟の進行)

医療過誤事件における損害賠償請求の流れ(訴訟準備・訴訟の進行)

患者Aが、B医師の執刀下で手術Xを受けたところ、術前に思いもよらなかった傷害を受けた場合、AさんはB医師に対して、あるいはB医師を使用するC病院に対して、損害賠償を請求できるでしょうか。

今回は、B医師の手術手技が著しく稚拙であったために、術中にAさんの身体のうち本来傷付けるべきでないところに傷が付いたという場合を考えます。

医療過誤事件の進め方(立証準備・医療過誤調査)について詳しくはこちら

医療過誤事件の流れ➂訴訟準備

まずは面談

訴訟準備をするにあたって一番重要なのは、ご依頼者様の意思です。本件でいうなら、Aさん(又はAさんが死亡していた場合にはAさんのご遺族)に、訴訟をご案内します。

訴訟が第一審だけで2~3年程度かかることも珍しくなく、その間に出ていく費用としてこれだけのものがあるということ、得られる利益の最大値、勝訴の見込みがどの程度あるのか等を率直にお話します。

予想される困難や主張の弱点のような訴訟の帰趨に関する事柄のほか、今後訴訟のために求めたい資料、家族の協力は得られているのか、何時頃誰にどういう方法で連絡を取るのがいいかといったことも確認します。
今回の件でAさんは、家族のサポートもあり、訴訟を決意したものとします。

訴状の起案

当職の私見ですが、訴訟において一番力が必要なのは訴状です。
スタートラインの設定が間違っていては今後の訴訟追行に大きな影響を与えることになりますし、医療訴訟だということで、主に文系出身の裁判官に「いやだな、これはわかりにくいな。」と引かれてはいけません。

裁判所は色々です。一生懸命理解して善解しようとしてくれる場合もあれば、わかりにくいということで「無理な訴訟をしに来たな」という印象を持たれる場合もあります。そもそも裁判所が忙しいということも踏まえれば、できる限り噛み砕いて、できる限りこちらに寄って理解してもらいたいところです。

もちろん嘘はつけませんし、相手方から認否と反論があるので、内容はきちんと立証できるものをそろえる必要があります。適宜、絵・写真・図・グラフや脚注を使い、時には用語表を作成して、問題となる医療行為について具体的なイメージを持ってもらえるように工夫します。

設例の場合であれば、術中動画がある場合、たとえば術中動画のキャプチャを訴状に引用し、矢印や吹出しをつけるなどして、本来こうあるべきものがこうなったということを、文字と写真で同時に説明することなどが考えられるでしょう。画面には血管・内臓・手術器具・指が現れますから、どの位置についてどういう手技が行われているのかということが見失われないようにすることも必要です。
術中動画がなければ、絵を使うこともあります。
もちろん、見なくてもわかる程度のことだと判断して、何も絵や図をつけない時もあります。

当職は、訴状を起案した後、第何版かの推敲と改訂を重ねながら、同じ事務所の、医療事件を普段取り扱わない弁護士に時間を取ってもらって訴状を見てもらうということをよくします。みんなに見てもらいすぎて、事務所の弁護士全員がある程度どんな事案かを把握してしまったということもありました。

なぜそんなことをするかというと、自分の書いた書面が、普段医療事件を取り扱わない人にも十分わかりやすく正しいメッセージを伝えるものかの検証をするためです。既に何度も協力医に面談をしてもらうなどして意見をもらった後ですから、訴訟前には、第三者である裁判所からどう見られるだろうかという視点が往々にして欠けてしまいます。

ミオトームって何?ivとdivはどう違うの?心拍数と脈拍数がずれているから何なの?この段落とこの段落がどうつながっていくの?という、それまでの準備期間の中で弁護士の中では当たり前になってしまっていた事項を、第三者目線でフォローしてもらう作業が、書面のブラッシュアップにつながっていると思います。

事件のことを何も知らない裁判所に見てもらう、理解してもらう、判断してもらうための書面なのですから、医者と担当弁護士だけがわかる訴状は、いくら内容が正しくても出来損ないではないでしょうか。

証拠つけ

訴状には、立証を要する事由ごとに証拠を記載したうえ重要な書証の写しを添付する必要があります(民事訴訟規則53条1項、同55条2項)。そのため、訴状段階で必要な証拠は適切に提出します。

ここで「適切に」とは、必ずしも一度に全部出すわけではないということです。たとえば協力医の意見書のなかでもポイントが違うということもありますし、裁判所の訴訟指揮に応じて出したいものもあります。

しかし、適時提出主義(民事訴訟法156条)もありますから、訴訟経過の中でバラバラと出すのもまた望ましくありません。
訴訟経過を最初からある程度見据えて、「適切に」提出します。

証拠説明書の作成

「文書を提出して書証の申出をするときは、当該申出をする時までに、文書の標目、作成者及び立証趣旨を明らかにした証拠説明書を提出」する必要があります。(民事訴訟規則137条1項)。

「証拠説明書は、証拠とする文書の持つ証拠力を十全に引き出すために積極的に利用すべきである。」とされます(5訂『民事弁護における立証活動』137頁、証拠法体系4・68頁)。また、当職も、民事裁判修習中(司法修習生といって、司法試験合格後に裁判所・検察庁・弁護士事務所等で研修を受ける立場の者が、民事事件を扱う裁判所で研修を受けている期間のことを言います。)に出会った裁判官が、弁護士の出した書面を読みながら、「この証拠の証拠説明書はどこか」ということをいつも気にしていたという記憶があります。全ての裁判官が、当職が修習を受けたあの裁判官のように、証拠と証拠説明書を丁寧に見比べてじっくり検討しているかというと、どうやらそうでもないようなのは残念ですが、せっかく有利だと思って証拠を出すのですから、こちらの言い分に沿うようにじっくり検討してもらえるチャンスをみすみす逃すことはできません。

そこで、当職は多くの医療訴訟において、この証拠説明書の作成にかなりの時間を割きます。この書面の何ページにこういうことが書いてあるから、こういうことがわかって、結局訴状の何ページに書いてあるこういうことが証明できるのだという流れをできるだけ書きます。特に大事だと思うところは下線を引き、色を変えたりマーカーを引いたりします。
訴状と証拠の結びつきを文字で間違いなく示すものですから、証拠説明書の作成には、かなり気を使いますし時間をかけます。

印紙代をお願いします・・・

できあがった訴状等は、ご依頼者様に見てもらいます。弁護士は当事者の代理人ですから、当事者が覚えている内容、言いたい内容と書いてあることが合致しているかをみてもらいます。
この内容であっています、これで出しましょうとなれば、印紙代をお願いします。

印紙代は、特に医療訴訟となれば、なかなか些少な金額と言うわけにはいきません。
たとえば500万円を請求する訴訟であれば3万円の印紙、1000万円を請求する訴訟であれば5万円の印紙、1億円を請求するのであれば32万円の印紙、2億円を請求するのであれば62万円の印紙が必要です。

これは裁判所に出すものですから、私たちの一存で安くするようなことはできませんが、一部請求といって、「全体の損害額は2億円だけれども、とりあえず100万円だけ請求する。」という訴訟の仕方をすることで、訴状段階での出費を抑えることは可能です。この場合には、請求額を広げるときに差額印紙代を納付することになります。また、訴訟の中で請求していない部分について消滅時効で権利が消えてしまう可能性にも注意が必要です。

医療過誤事件の流れ④訴状の送達

訴状審査

これは医療事件に限ったことではありませんが、訴状は、裁判所でまず簡単にチェックされます。
訴状で意味の分からないことを書いている場合には、裁判長または書記官から補正が促されます(民事訴訟法137条1項、民事訴訟規則56条)。しかし原告となるべき人が補正に応じず、訴状にとって必要な記載事項も読み取れないというような場合には、訴状は却下されます(民事訴訟法133条2項、同137条2項)。

これでは相手に訴状は届かず、訴訟は始まりません。 不備を直したり、訴状却下に対する即時抗告が認められれば、ようやっと訴状を相手に届けようという話になります。

訴状送達

訴状が被告に送達されれば、原告と被告という立場で訴訟の場に上がることになります。
ところで、訴状の送達は原則として被告の住所地に対して行います(民事訴訟法4条1項、2項)。被告の住所は、裁判所は調べてくれませんので、原告が訴えを起こす前に調べる必要があります。
医療過誤であれば、病院がわかっているのだから病院に送ってしまえばよいではないかと思われるかもしれませんが、なかなかそうはいきません。

今回であれば、Aさんは、B医師だけ、C医師だけ、又はB医師とC病院の両方を被告に選んで訴えを提起します。
するとC病院の所在地はさして労なくわかるとしても、B医師の住所地は難しいかもしれません。当職の場合、B医師に事前に電話を掛けて、どこで受け取りたいかをこっそり尋ねたようなこともあります。

医療過誤事件の流れ➄訴訟の進行

第一期日

第一期日は、原告から訴状の陳述と証拠の提出をします。被告は、来たり来なかったりですが、第一回目の期日の場合は被告側から「原告の請求に理由がない」旨述べる答弁書が1枚、期日の前に提出されていることが多いです。この答弁書が出ていれば、第一回目の期日は欠席しても被告側は一応大丈夫です(法的には原告も欠席して訴状を擬制陳述することができます(民事訴訟法158条)。ただし、被告も同じ日に欠席した場合には、期日指定の申立てがないと訴えを取り下げたことになってしまいます(同法263条前段)。そもそも第一回期日は原告と裁判所が事前に協議していますから、あえて取り下げられるリスクを冒して欠席するメリットは原告にはありません。)。

医療事件の第一期日は、他の事件と少し違うかも知れません。当職は、離婚や交通事故等、他の事件で出廷した経験もありますが、これらの事件では、第一回目は「陳述扱いとします。」「次回被告の反論を待って・・・」「次回は何月何日・・・」といった、かなりさらりと終わる印象です。

しかし、医療事件の場合は、裁判所から、第一回目から核心に迫る求釈明をされることがあります。原告または被告の弱点に触れるようなところや、被告からこういう反論が来た時にこう構成して・・・と自分の中で分岐を考えていたところをずばり突かれることもあります。それでなくとも、裁判官の態度から、訴状が裁判所に与えた印象をなんとなくうかがうこともできる場合があるように思います。これを見逃すのは非常にもったいないと思います。

第一期日のシミュレーション

裁判所「原告は訴状を陳述されますか。」
Aさんの代理人弁護士「はい。」
裁判所「被告側から平成29年4月28日付答弁書をいただいています。これを陳述とすることでいいですか。」
B医師・C病院の代理人弁護士「はい。」
裁判所「原告から、証拠として甲A号証を1から2まで、甲B号証を1から10まで、甲C号証を1の1から1の20までいただいています。甲Aと甲Bはいずれも写しということですが、甲Cは全て原本ですね。本日、甲C号証の原本はお持ちですか。」
Aさんの代理人弁護士「こちらに用意してあります。」(書記官に渡す。)
裁判所「・・・(原本と写しが同じであることを確認)・・・。わかりました。被告は原本を確認されますか。」
B医師・C病院の代理人弁護士「いいえ。結構です。」
裁判所「では、お返しします。」(書記官に渡す。)
裁判所「原告の訴状の内容についてですが、過失1と過失2が書いてありますね。過失1と過失2の関係はどのようにお考えですか。」
Aさんの代理人弁護士「過失1は、B医師が、手術Xのこのタイミングで、右側に位置していた瘤を切除するのに、手技が拙劣であったため瘤横の血管を裂いてしまったという内容です。過失2は、仮に過失1が認められないとしても、手術Xの後にB医師が十分に止血をしていなかったという内容です。過失1が主位的主張、過失2が予備的主張です。」
裁判所「わかりました。手術の内容が問題となるということで、手術中の様子の映った手術動画等を提出される予定はありますか。」
Aさんの代理人弁護士「追って提出する予定です。」
裁判所「わかりました。ではつぎの期日は、被告から訴状の内容に詳しく反論してください。また、診療経過一覧を準備してください。」
B医師・C病院の代理人弁護士「はい、わかりました。」
裁判所「次回からは弁論準備手続として行います。裁判長は私、受命裁判官はJさんです。次回期日を決めますが、被告は準備にどれくらいの時間がかかりますか。」
B医師・C病院の代理人弁護士「打ち合わせと準備で、少し長めに時間をください。」
裁判所「では、6月の半ばくらいで・・・」
・・・以下、次の日程が決まります。

どうですか。ご想像より淡々としているかもしれません。
「異議ありぃ!」とか、「真実はこうだったはずです!(回想シーン)」などのドラマのような展開はありませんが、実際は、裁判所からの質問がとんでもないところに飛んできたりしないか、顔色から何かうかがえるところはないか、仮に被告からの答弁書で既に詳しく書面が出ていた時には何かつっこみどころはないかなど、弁護士は色々考えています。

第2回期日以降

第2回期日から後(事案によってはもっと後になることもあります。)は、口頭弁論として公開の法廷で行う手続きではなく、原則非公開の弁論準備手続きに付されることがあります。

ラウンドテーブルに原告、被告、それぞれの代理人弁護士と裁判官が着席して、事案について意見を交換します。基本的には原告と被告の間での書面のキャッチボールです。それ自体は他の事件とは変わりませんが、医療事件の場合は特に、書面についての議論がその期日で交わされることも多く、期日が充実しています。

第2回期日以降のシミュレーション

裁判所「期日間に提出されたものを確認します。平成29年9月1日付で、原告第3準備書面が提出されています。これを陳述されますか。」
Aさんの代理人弁護士「はい。陳述します。」
裁判所「それで、次は、被告からの反論ということになりますが。」
B医師・C病院の代理人弁護士「その前に、今回の原告からの書面について申し上げます。今回の書面は、一貫して、午後4時の患者のAさんのSpO2が85であったことを前提として記載されています。しかし、午後4時の時点でAさんのSpO2が85と計測されたということは、前提にされるべきではありません。」
裁判所「それはどうしてですか。」
B医師・C病院の代理人弁護士「それは、具体的根拠とページ数の指定については追って書面を提出するけれども、おおまかには、85と書いてあるのは看護記録だけで、その後応急処置に当たった医師の記録や退院サマリーなどその他の記録には、一貫して95であると記載されているからです。85は書き間違いであると考えられます。」
Aさんの代理人弁護士「午後4時は、手術が終わってから1時間たった時間です。1時間後にAさんを巡回看護した看護師のNさんが、まさに看護した当時の記録として85と記載しています。医師はNさんの後にAさんを診察したので時間帯はずれていましたし、退院サマリーは退院後に作成されるものであって当時の記録ではありません。午後4時という時点との関係で最も信頼性が高いのはNさんの85という記録のはずです。」
裁判所「その午後4時の時点でのSpO2が85か95かということは、本件においてどういう意味を持ちますか。」
Aさんの代理人弁護士「手術Xは、・・・という機序から、手術後2時間以内にSpO2が90以下にまで下がっている場合には特に、術中に血管を損傷してしまったことを強く疑い、つぎの処置を行わなければならないのです。このことは、被告も答弁書で認めています。手術後1時間で85だったか95だったかということは、午後4時の時点ですでにAさんに血管損傷が生じていたことを根拠づける事実として重要です。」
B医師・C病院の代理人弁護士「しかし、当方の主張としては、実際には午後4時の時点では95であったことから、血管損傷はまだその時点では生じていなかったはずです。Aさんの血管が損傷したのは、残念なことですが、Aさんの血管が脆弱であったために生じた不可避の術後合併症なのです。」
裁判所「なるほど。原告のこれまでの主張としては、B医師の手技が拙劣であったから手術Xの時点で血管を損傷したということでしたね。そして、手術Xの時点で血管を損傷していたことは、術後1時間のSpO2の数値からもわかるということで主張を立てておられる。一方で、被告は、術後1時間のSpO2の数値は90を超えているため血管損傷は手術中に生じていたことを裏付けないという反論をされるのですね。」
両代理人「そうです。」
裁判所「被告には、いまいただいた点を書面にして反論していただきたいと思います。被告は、その他の反論と併せて、準備としてどのくらいかかりますか。」
B医師・C病院の代理人弁護士「ストーリーはわかっていますので、通常通りで結構です。」
・・・以下、次回期日の日程が調整されます。・・・

期日は淡々と、「準備書面のとおり陳述します。」と進むこともありますし、以上のように双方言いたいことを議論することも多いです。今回は紙幅の関係上あっさりと書きましたが、そんなのはおかしいとか、こっちをみればその主張の根拠はない、など、特に白熱した期日になった後は、非常に疲労します。

この時点で原告の血圧がこうだったのは全体の位置づけの中でどういう意味を持つのか、数点主張されている過失同士の関係について、こちらの過失をとればこの点は因果関係の話になるのではないか、そうすると議論をする順番はどうすべきかなど、原告と被告とで互いに有利と思う展開があります。相手方に場が引っ張られていると思えば、できるだけ早い段階で反応する必要があります。理想は、以上のとおり、「その期日内」です。

裁判所の訴訟指揮もあります。裁判所の理解が原告と被告と同じ程度にまで至っているか、もっと先を読んだものであるときもあれば、まったく裁判所が当事者の話について来ていないと感じたこともあります。

訴訟中盤

訴訟の中盤ころまでは、以上の1のような展開が続きます。

ところで、私の担当する事件の多くでは、医師の意見書を最初から出すことはしていません。事案についての医学的意見は、当然訴訟前に医師から聞いていますが、その意見を最初に証拠として出してしまうことには「手の内を晒す」怖さがあります。また、病院側が対抗する医師の意見書を出してきて意見書合戦になると、病院と患者では経済力や協力してくれる医師の数に差がありますから、患者が医師の意見書のために出せる費用が尽き、肝心かなめのところでもう医師の意見書をお願いできないということになると困るという怖さもあります。もっとも、個別具体性が強い事案の場合には、訴訟の終了まで何通か意見書が必要になるという可能性を踏まえて、最初から出すという判断も当然あります。

最初から医師の意見書を出していない場合には、裁判所も、現場の医師であれば通常はどう判断するのか?というところを知りたいと思うようです。

「原告は、この点に関しての医学的見解を、どのように提出するおつもりですか。」と質問されたとき、原告に与えられている選択肢としては、大きく分けて①私的鑑定意見書、②専門委員、③鑑定の3つがありうるでしょう(具体的にその人についてどうだろうか、ということを問題にしている以上は、「教科書類で十分に裏付けられているはずです。」とはなかなか言えません。)。

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