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MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)とは|感染に関する医療過誤裁判例

MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)とは|感染に関する医療過誤裁判例

MRSAの定義

MRSAは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の略語で国際用語になっているが、その本態は新型の多剤耐性S.aureusである。S.aureusは人体寄生性が強く、鼻咽腔粘膜などに定着している時は無害であるが、傷口から侵入し感染が起こると、強い病原性を現す。とくに免疫不全状態にある患者では腹膜炎や敗血症などの深部感染に変わりやすいので、適切な化学療法で菌を早期に排除しないと、患者は不幸なことになりかねない。したがって、抗菌剤が作用しない耐性菌の増加はこの菌による感染症を治療するうえで常に大きな問題となる。

治療方針

細菌培養を行い、細菌が分離された場合、それが感染か定着かを鑑別することが大切である。何故ならば感染であれば、抗菌薬の全身投与が必要であるが、定着であれば、抗菌薬の投全身投与は必要ないからである。鑑別には病変部に感染症、つまり、発赤、腫脹、疼痛、熱感などの感染症状があることが重要である。その他、膿のグラム染色で好中球の貪食画像の有無も有用である。あるいは培養した菌量が多いか少ないかで、感染か定着かを判定することもある。たとえば菌量では分離された黄色ブドウ球菌が1cm²あたり10⁷cfu以上となった場合が一つの目安になる。

MRSA感染症の治療には、抗MRSA薬が使用されるが、その際には、①感染症の治療には十分な知識と経験をもつ医師またはその指導ものとで行うこと、②原則として抗MRSA薬および他の抗菌薬に対する感受性(耐性)を確認すること、③投与期間は、感染部位、重症度、患者の症状などを考慮して、適切な時期に抗MRSA薬の継続投与が必要かを判断し、治療上必要最小限の投与期間にとどめることが原則である。

抗MRSA薬の使用については、感染症に対して抗MRSA薬を投与し、治療薬物モニタリングを実施し、至適用量・用法を確認する。

そして、MRSA感染症に対して最初に選択する治療は、バンコマイシンである。

したがって、MRSA感染が判明した段階で、早期に患者に対し、説明をし、抗MRSA薬の投与をする必要がある。

MRSA感染に関する医療機関の法的責任

MRSA感染症に関する訴訟においては、①病院の院内感染防止に向けた衛生管理体制の不備、②感染徴候ないし感染が判明した後の治療の適否(細菌培養検査、抗生物質の選択・投与時期など)が争われるものが多く、双方が争点となることもしばしばみられる。

①病院の院内感染防止に向けた衛生管理体制の不備について

問題点

MRSAは人体に常在する常在菌であり、入院患者の2~20%が保菌者とも言われているので、いつどこから感染したのか、その感染経路を明確に特定することは困難な場合が多い。それゆえ、「感染源及び感染経路を確定できない以上、いずれの点において被告に過失があったかについてこれを確定することはできない」などとしてその責任が否定される判決が多くあった。
しかし、近時は感染経路がある程度特定出来る事案において感染責任を肯定する判決もみられるようになった。

裁判例

大阪地判平成13年10月30日判タ1106号187頁

事案
Aが脳腫瘍摘出手術後MRSAによる化膿性髄膜炎を発症したものである。

判旨
脳腫瘍摘出手術後の合併症として髄膜炎があり、縫合部では髄液漏を起こしやすく、Aは実際に髄液漏を起こしたが、B病院は、患部を十分に消毒し、ガーゼ等で患部を十分に被覆し、ガーゼを固定すること等により、医療関係者又は第三者が患部や患部から漏出した髄液等に接触して発症するMRSA感染を防止するための適切な処置を講ずる義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、患部を露出させたまま一時放置し、患部の消毒や被覆について適切な処置を講じなかったため、AはMRSAによる化膿性髄膜炎に罹患したと認定した。そして、Aが化膿性髄膜炎に罹患した結果、髄膜炎治療に時間をとられ、カルボプラチンによる化学療法が遅れたため、その間に腫瘍が増大したとし、化学療法の開始の遅れがなければ、Aはその死亡の時点においてなお生存していた高度の蓋然性が認められるとして、Aの死亡につき、Yの責任を認めたものである。

評価
医療機関が感染の危険性が極めて高い状況を作出しているということを理由に感染責任を肯定していると考えられる。

②感染徴候ないし感染が判明した後の治療の適否について

問題点

MRSA感染後の治療責任については、感染予防責任と比較すると、具体的治療経過を分析すれば過失の特定が比較的容易である。そこで、MRSAの治療薬であるバンコマイシンが適切な時期に投与が開始されていたかが争われることがほとんどである。

裁判例

前橋地裁高崎支判平成13年3月22日判タ1120号246頁

事案
Xらの子Aは、生まれつき心房中隔欠損症であったため、大学病院で手術や治療を受けていたが、Yの経営するB病院を受診した際、僧帽弁閉鎖不全症と診断され、人工弁置換手術を受けることになって、平成8年9月24日、B病院に入院し、翌25日、Yの執刀により右手術を受けた。ところが、右手術後、Aには痛みや発熱が続き、Aの白血球数やCRP値も高い数値で推移したうえ、同月28日、Aの心のうに設置されたドレインから、白色混濁の物質が検出される等の現象もみられた。これに対し、Yは、Aに薬剤投与等の治療を行うとともに、同年10月1日、Aの血液を試料として外部機関に委託し、菌培養同定検査及びMRSA薬剤感受性検査を行ったが、その結果、Aの血液からはMRSAが検出された。Yは、同月5日、Aに対し、バンコマイシンを投与し、治療に努めたが、Aにはその後も、麻痺、出血等の症状が続き、ついに同月26日、Aは、B病院において、MRSA感染症を原因とする低心拍量症候群で死亡した。

判旨
AがB病院に入院していた期間及びその前後の近接した時期に、B病院には、Aの他に4名のMRSA保菌患者が入院しており、Yが同人らにMRSA感染症の特効薬とされるバンコマイシンを投与していた事実から、同人らがMRSA感染症発症者であり、Yは、そのことを認識していたと認定し、したがって、そのような状況下では、Yには、Aの症状いかんで、MRSA感染を疑って治療を行うべき注意義務が存したというべきところ、Aの手術後の症状の推移、特に、同年9月28日にAの心のうドレインから白色混濁の物質が検出された事実は、MRSA感染症発症の重要な兆候であったのであり、それにもかかわらず、Yが、Aの血液を試料とする菌培養同定検査を行ったのは同年10月1日、Aにバンコマイシンを投与したのは同月5日であって、特に、後者に関しては、当時の医療水準のもと、バンコマイシンは、MRSA感染に対する第一次選択薬で、副作用を警戒して、MRSA感染が明確でない限りそれを使用してはならないという意識も、医師の間に一般化していなかったのであるから、Yは、Aに対し、たとえ検査の結果、MRSA感染が明確化する以前であっても、より早期にバンコマイシンを投与すべきであったというべく、MRSA感染症も、早期に適切な薬剤投与が開始されれば、70ないし80パーセントは治癒するとされることからすれば、結局、YのAに対する検査及び治療、特に、バンコマイシン投与の遅れが被告の死亡につながったとして、Yの過失を認め、AのMRSA感染原因等、感染防止対策について判断するまでもなく、Yに責任が認められる。

評価
本判決は、MRSA感染について、医師の感染症発症後の治療の過失をとらえ、医師の責任を肯定した事例である。

参考文献
MRSA感染症の治療ガイドライン 一般社団法人日本感染症学会 編集:MRSA感染症の治療ガイドライン
MRSA感染症 株式会社新興医学出版社
今日の治療指針2010年版/MRSA感染症 株式会社医学書院

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